誰が言葉狩りを行っているのか

昔、 英語の仕事をしていた頃、当然ながら日常的にアメリカ人と話をした。キャシーという女性もそんな一人だった。私の記憶が正しければ彼女はハーバードで政治 学を専攻した後、日本に来て英語を教えていた。日本に来たのも将来学者になるための1ステップみたいな感じの人だった。

当然ながら頭は良 く「東部エスタブリシュメントというのは、こういう人からなるのか」と私は思ったものだった。だがちょっとドジでお茶目なところもあった。本当にお茶目 だったのだが。ある日、アメリカ人数人+日本人で日本の少子化について話をしていた時のことだ。私に「何故、日本では少子化がおきてるのか?」と聞くので 「ヨーロッパでもおきてる。日本がおかしいのではなく少子化がおきないアメリカがおかしいのでは?」と答えると少し考えこんだ。

「アメリ カでもNYやボストンのような都会では少子化がおきている。だがテキサスとか南部の州の女性は4−5人の子供を普通に産む、だからアメリカ全体では少子化 がおきない」と彼女は答えた。不運なことにその部屋にいたアメリカ人は彼女以外全て南部出身だった。「オッ、オー」という冷やかしがすぐに入りキャシーと その他のアメリカ人はオブラートにくるんだ皮肉の応酬をはじめた。なるほど、南北戦争はおきるべくしておきたんだなと私は思ったものだ。

あ る日、キャシーはPCについて話をした。PCと言ってもウインドウズ・マシンの事ではなくPolitically Correctという「運動」の略称である。ある種の左翼思想に基づく言葉の言い換えで、例えば、チェアマン(会長、議長)の代わりにチェアパースンとい う特定の性を示唆しない表現を使う事がPCであるとされた。彼女はアメリカでのPCの例を挙げた後に、日本ではPCは重視されてないのかと聞いた。他の日 本人が黙っているので私が「しかしアメリカ人はHe's dumb(彼は馬鹿だ)という表現を日常的に使うがdumbというのは元々、オシをさす言葉だろう?こういう表現はPC的に問題ないのか?」と聞くと少し 驚いた表情を浮かべた。「面白い指摘だ。そんな風に考えたことが無かったが恐らくあまりに日常的な言い方のためPCの対象としてアメリカ人は考えてないの だろう」と彼女は答えた。今、調べてみたら私が指摘したことと全く同じ疑問が出されていた。

http://www.answers.com/topic/dumb

こ れによるとドイツ語にdummという言葉があり馬鹿を意味したという。これが英語のdumbと発音が同じだったためにドイツ語の影響でオシであることが馬 鹿を意味するようになったとある。だが英語には他にもHe's totally blind. 彼は全く先見の明がない(=アホ)という表現もあり、そもそも日本的な言葉狩りをする意思がないように見える。

いやアメリカだけではなく ブラジルでもそうだ。例えば初期のサンバ作家にノエル・ホーザという方がいる。この人は生まれる時の帝王切開手術の失敗で顎が歪んでいた。自身が障害者 だった訳だが彼の代表作のひとつにSamba de Gago(ドモリのサンバ)というのがある。ドモリが恋を告白する場面を歌ったサンバだ。この曲は今でも普通に演奏され録音されている。例えば「スカート をはいたジョアン・ジルベルト」ことホーザ・パソスやジョイスが録音している。

日本では普通に放送禁止歌になるだろう。アメリカやブラジルでは普通に許されていることが何故、日本では差別表現とされ放送禁止になるのだろうか?一体、誰が言葉狩りを行っているのだろうか?