大猫ロキシーの数奇な物語

私の部屋から隣家の庭がよく見える。部屋は2階なのでちょうど見下ろす形になる。2008年の初夏頃、私はお隣の庭を巨大な猫が歩き回っているのに気がついた。白黒ブチの典型的和猫なのだがともかく大きい。私はこの猫をロキシーと名付け観察することにした。

残念ながらロキシーはギターを弾き豪快なフレーズを繰り出すという技は持ち合わせてないようで、むしろギター類似楽器の原材料に適しているように見えた。2週間ほどたって私はふと疑問に思った、何故この猫はこれほど大きいのか?

一 般に放射能を浴びると巨大化することはよく知られているが、私の家周辺にそうした研究施設は全くない。どうしてロキシーはこれほど巨大になったのか、私は 疑問に思い観察した。その内に私の視線に気付いたのかロキシーはこちらをギロッと見た。いわゆるガンを飛ばすというヤツである。そのあまりの迫力に私は思 わず視線をそらしてしまった。情けない話だ。

ある日、突然思いついた。お隣には老夫婦が住んでいるがお二人とも衰弱しており介護の世話に なっていた。子供達が食べ物などを持ってくることもあった。ロキシーはひょっとするとこの老夫婦のための食事を先回りをして食べ、ここまで巨大化したので はないかと・・・ 実際、お隣から物音が全く聞こえない状態で、夜になると玄関に小さな灯りがつくのでやっと人が住んでいるのがわかるのだった。

こう思いついてから私は複雑な思いでロキシーを眺めていたのだが、3ヶ月ほど前から姿を見せなくなった。一体、どうしたのか、三味線屋にでも捕獲されたのかと思っていたら、数日前にお隣の老夫婦の奥さんが亡くなられた。2日ほど前に葬式があった。

結局、奥さんが老衰で弱り切ってしまい食事や食材の差し入れが止まったためにロキシーは消えたようだ。日本社会の高齢化は様々な現象を生み出しているようだ。

そ う言えば町内に猫オバサンがいた。この人は旦那に早く死なれて寂しいのか毎日、野良猫に食料をやっていた。自分が受け取る年金を使いスーパーで猫の餌を 買ってきては与えていた。この行為は町内のみんなから嫌われ止めるように言われたらしいのだが猫オバサンは頑固に続けていた。だが猫オバサンもある日、急 に亡くなり野良猫の世話をする人は一人もいなくなった。

そして町内から野良猫はほぼ消え失せたのだった。