サラは微笑まない

や はり英語の仕事をしていた時のことだが偶然にサラというアメリカ人女性がフルートを演奏することを発見した。この人はフルートでアメリカ政府の奨学金を受 けていた。モンド・グロッソでボーカルをやっていたマンデイ・満ちるさんも確かフルートを練習していて、この奨学金の試験を受ける予定だったのが試験の直 前の交通事故で前歯を折ってしまい棄権したと雑誌インタビューで答えていたと思う。結構、難しい奨学金らしい。

面白いとおもった私は自分 が一人で制作した楽曲がいくつか入ったカセットを彼女にプレゼントした。数日後に私の家に電話があり、オマエの曲は面白い、ぜひセッションをやろうと持ち かけられた。すでに書いたように私は演奏は大嫌いだが作曲と屁理屈をこねる事だけが好きという変人音楽家なので、あまりセッションに乗り気でなかったのだ が彼女は熱心に誘い「オマエの作曲の才能は素晴らしい。まるでケニーGやバーシアの曲を聴くようだ」という大変な「お褒めの言葉」をいただいた以上、逃げ る訳にもいかず練習スタジオを予約しセッションをやる日を決めたのだった。

当日、私はセミアコだけを持ってスタジオに入ったのだが彼女は すぐに「オマエのセミアコはだめだ、スタジオのキーボードを弾け」と言い出した。いや私はキーボード奏者ではないと言っても彼女は納得しなかった。「オマ エはカセットの曲であれだけ複雑なコードを演奏していた、当然キーボードで作曲したはずだ、何をもったいぶっているのか」と彼女は言うのだが、私がキー ボードを始めたのは30歳を過ぎてからで、それもドラム・パートの打ち込み用に使用していただけなので全く弾けないと言っても良かった。その割には使って るコードがm11とか7b9b13とか小難しい。その為に彼女は何か勘違いをしたようだった。

結局、このセッションは全くうまくいかず、私はギターもキーボードも弾かずドラムスを叩いてリズムだけを刻んで彼女に好き勝手に吹かせることで何とか「セッション」を終了したのだった。

コ ンゴ音楽ファン兼低レベルのコンゴ音楽演奏家なのだからジャズが出来なくて何が悪いと開きなおりたいところだが、このセッションでの失敗は結構こたえた。 その結果、私はジャズ系の人から誘われても絶対セッションに参加しないようになった。実際、ジャズ喫茶などでライブを聴いた後で誘われる事もあるのだが、 もはや懲りた私は「自分は聴くほう専門で楽器は一切、演奏しません」と言って断るようになった。

ヘタなオマエが悪いと言われれば、その通 りと答えるしかないがジャズの人はあまりに身勝手だと思う。適当なブルース・コード進行の曲なら誰でもジャムできると勝手に思っている。だがコンゴ音楽に はコンゴ音楽の作法がある。コンゴ音楽の土俵で、コンゴ音楽の作法でジャムしようというなら喜んで応じたい。例え相手がうますぎてセッションがうまく行か なくても、それなりに学ぶところがあるからだ。いい加減、ジャズの人はジャム・セッションはブルースや循環コードでのスケール見せびらかし演奏とは限らな いことを理解してほしいものだ。