死ぬのにとても良い日

2007 年8月、サブプラ危機が始まり世界的な信用収縮と株価暴落が始まるまで2chの投資系の板には世間をなめた書き込みがたくさんあった。その1つに様々な高 金利通貨を買い、円を売ることで石垣島や宮古島での優雅な生活を楽しもうというものがあった。私はFXを全くやらないのだが、果たしてそんな世間の常識か ら外れたことが可能だろうかと疑問に思ったものだ。

やがて円高と株価暴落が始まり、2chの投資関連の板は修羅場となった。マージン・ カットや証拠金不足からの自殺予告も何回か見た。だが、そうした自殺予告をするような人はまず自殺しない。本当に追いつめられている人は、そんな書き込み をしないからだ。だが、下の書き込みは妙に印象に残っている。まずある男による自殺予告があった。実際、その日の前日NY市場は大きく動いた。そのスレの コテ達はそんな馬鹿な事は止めて自己破産を選べと説得した。男は、ただスー族インディアン(ネイティブ・アメリカン)の諺を何回かはりつけた。

「今日は、死ぬのにとてもいい日だ。 あらゆる生あるものが私とともに仲良くしている。 あらゆる声が私の内で声をそろえて唄っている ... 今日は、死ぬのにとてもいい日だ。 私の土地は平穏で私をとりまいている」

本 当に死んだかどうかは不明だが、その男が二度とスレに現れなかったのは事実だ。皮肉なことに、それ以降の相場があまりに予測不可能な形で荒れたために、そ の時に男が自殺を止めるように説得したコテ達も全て消えていった。消えたから死を選んだという訳ではないのだろうが・・・

私は株はおろか日経平均先物すらやらないという変人投資家なので何とか生き残っている。だが、ここ2年ほどの2chの投資関連スレに気が滅入るレスが多かったのも確かだ。一体、彼らは何を間違えたのだろう?

す でに書いたように私は株も先物も商品もFXもやらないという超変人投資家なので、推測でしかないのだが、根本的な部分で共通する間違いが1つあるように思 える。それは何かというと株でも先物でもドルでも鉄スクラップでもいいのだが、何かを買うあるいは売るポジションを作る時の考え方に問題があるように思え る。

話をわかりやすくするためにトヨタの株を買う人を考えてみよう。そうした投資家に欠如している考え方は何故トヨタの株を選ぶのかという考えはあっても、何と比較して有利だからトヨタの株を買うという部分が欠落しているのだ。

も しホンダよりトヨタのほうが会社規模が大きいという理由でトヨタ株を買うならホンダの株を同時に売るべきだ。もし銀行株よりトヨタのような製造業のほうが 信用できると考えるなら、トヨタの株を買うと同時に銀行株を売るべきだ。もし現金を寝かしておくよりトヨタ株に投資したほうがましと考えるなら、現金を売 りトヨタ株をうるべきだ。現金の空売りはできないが、国債は現金とほとんど換わらないから、長期国債先物を売ればよい。

要はトヨタの株を買うという判断の裏には、何かに対してトヨタの株のほうが有利だから買うという判断があるはずだ。なら、比較対象になったものを売りトヨタ株を買うべきだと私は思う。

上 のスー族インディアンの諺を最後に書いて消えた男は、博士号をとった後、アカデミック・ポストを見つけられず先物取引を始めたような記憶がある。つまり彼 はそれなりに知性のある人だった。その人が何故、何かを買うなら比較的に劣っている何かを売るべきだという理屈が理解できていなかった。こうして日本から 才能が消えていく・・・