ちょっと贅沢な国家破産 パート2

コンゴという具体例

コ ンゴという国は何回も国家破産している。私が行った時も、国家破産状態だった。それはンジリ国際空港に降りてすぐにわかった。空港でパスポート検査があ る、ここまでは世界中同じなのだが、取り上げられたパスポートが戻ってこないのだ。現地の人はすぐに空港の外に出て行くのだが、私達外国人は留め置かれ た。その内に現地通貨換算で2万円相当の金を払えばパスポートを返すと言い出した。我々は怒り「それは何の料金だ?空港使用料か?説明しろ!」とつめよっ たのだが空港職員は全く説明をしなかった。そのはずで、この2万円というのは空港職員の賄賂だったからだ。パスポートを取り上げたのを良いことに外国人の 足下を見て彼らは賄賂を巻き上げるのだ。

これは私達コンゴ音楽ファンの間では、よく知られた事実だった。だが中には賄賂も仕方ないという 人もいた。何故ならキンシャサでは職についている人の方が少なく、家族や親戚のなかに公務員がいると、その人が一族を賄うという風習/義務があったから だ。そして一族郎党数十人を養うには賄賂を取らざるを得なかった。何故なら公務員の給料も安く、また支払われない月も多かったからだ。民間の職がほとんど 無くなり公務員の給料さえ無配がちになるというのは破産した国家に共通する特徴である。

だがキンシャサ市内を歩き音楽を聴いている限り、 国家破産という言葉が連想させる悲惨さをあまり感じなかった。これはコンゴが破綻し混乱状態になるのを恐れた国々(フランス他の主要国)が債務免除をおこ なったり援助をして支えていたからだ。コンゴという国はハイテク産業/宇宙産業に欠かせない希少鉱物の宝庫であり、コンゴが混乱状態に陥ることをアメリカ もロシアも中国も望んでなかった。

90年代に入り長年の独裁者モブトゥが死にカビラが新大統領になった。皮肉な事に、独裁者がいなくなったコンゴはかえって求心力を失い、90年代末からの東部を中心にした内戦に入っていく。その過程でコンゴ経済はさらに疲弊していった。

例 えば、我々コンゴ音楽ファンの一人がビザ申請に在東京大使館を訪問した際に、彼はビザ発給に対し3万円のお金を要求された。この人は怒り、理由の説明を求 めた。すると大使が自ら説明してくれたのだが、本国から送金が全くなく大使すら給与を受け取っていない状態であり、ビザを発行する費用で大使館を維持し給 与にあてていたという。最後には大使から「助けると思ってビザ代金3万払ってくれ」と泣きつかれたという。だが日本での状況はまだマシだったようで、コン ゴの旧宗主国であるベルギー駐在大使とその家族は本国からの送金ゼロの状態で大使館を維持することができず、とうとうホームレスになってしまいストリート を彷徨っている状態でベルギー警察に保護されたという信じられない実話もおきた。

ここまでくると、もはや国家破産を通り越して失敗国家に分類されるらしい。ウイキペディアから引用すると

失 敗国家の国民生活は例外なく悪化する。これは政府の無力、腐敗によって行政が機能しなくなり、警察、医療、電気、水道、交通、通信などの社会インフラが低 下するためである。中でも治安は急速に悪化し、給料の遅配などにより軍隊や警察では職場放棄やサボタージュが発生する。軍や警察が自ら犯罪行為をすること も起こる。この治安の悪化により、生産力と国民のモラルが低下する。農民が土地を捨てて難民化し飢餓が蔓延したり、略奪などが日常化したりする

2006年度の失敗国家ランキングワースト3
1位 スーダン
2位 コンゴ民主共和国
3位 コートジボワール

とある。堂々2位に入っている。

と いう訳でコンゴ音楽ファンをやっていると国家破産状態が当たり前くらいにまで「認識が進む」。コンゴにせよ私個人的にはコンゴと同じくらいの愛着を持つア ンゴラにせよ現在、非常に危ないので現地に行って失敗国家というのはどういう状態にあるのか自分で体験しろと勧めるつもりは毛頭ない。だが音楽の魅力故に 訪問する日本人は少数ながらおり、なかには現地のプロ・バンドのメンバーとなりキンシャサに骨を埋めた人もいる(ゴロウさんというサックス奏者)。いずれ にせよ日本の国家破産論者たちは、破産した国家はどういう風に運営されているか一度、状況を体験してから自説を唱えるべきではないだろうか?

あなたは一度も手術をしたことの無い医師のアドバイスを信じますか?