私が見た朝日新聞珊瑚事件

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%9
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いわゆる朝日サンゴ事件のウィキでの記述を見て私は若干、違和感を覚えた。

引用

朝日新聞社の対応 [編集]
5月19日付けで珊瑚に傷をつけた東京本社写真部員・本田嘉郎は退社(懲戒解雇)処分、東京本社編集局長・同写真部長は更迭、同行していた西部本社写真部員は停職三カ月、一柳東一郎社長(当時)が責任をとって辞任という結果となった。

そ の後朝日新聞社の最高幹部が沖縄県庁などに謝罪したが、非常に横柄な態度をとっていた様子が全国にテレビ放送され、さらなる批判と抗議を受けた。しかもこ の様子に対する抗議には「朝日にかぎって絶対そんなことはない」という応対がなされ、報道機関のみならず朝日新聞社の体質そのものを問う事件となった。 [要出典]

引用終わり

実は、この事件に私も少し関与している。いや私がサンゴに傷をつけた本当の犯人という意味ではないので誤解ないように。

1989 年に私は上記の東京本社写真部長と共同作業をしていた。この人のライフワーク的報道写真展を私が現場責任者として担当したからだ。この時の広告主は大規模 本屋さんで、あまり広告のイベントとして考えられない報道写真展にお金を出してくれることになり、広告が会場を確保し設営しスタッフを雇い、要するに展示 会の経費を全部、負担し、東京写真部部長の集めた報道写真を展示してあげようというものだった。当然ながら棚からぼた餅の写真部長は非常に喜び、イベント も好評のうちに終了させることができた。この時、打ち合わせで写真部長(以下G氏と表記)と何回か会い、それなりに協力関係を築いた。

サ ンゴ事件がおきたのは、このイベントが終わってすぐだった。最後の挨拶に名古屋本社広告局にやってきたG氏は憔悴しきっていた。私が「大変なことになりま したね」と言っても返事が無かった。G氏は陽気で冗談が好きな「もてる中年」であり、実際、私が雇っていた女性スタッフはみんなG氏のファンになったくら いだ。だが、この時はそうした余裕すら無かったようだ。

そこで最初のウィキの文章に戻るのだが一緒に仕事をするなかでG氏の腰の低い振る 舞いを見た私には東京本社写真部がウィキが言うほどの「悪の巣窟」とは思えないのだ。また一柳東一郎社長が責任を取って退任した時の文章は編集嫌いが多い 広告でも感動する人がいた。「編集にもまともな人が居たんだな・・・」と感想を述べる人もいたくらいだ。まあ、それくらい編集の傲慢さを嫌う人が広告にい たという事の証明でもあるのだが。

一柳東一郎氏の辞任の弁は下のURLで読める。

http://asahilog.hp.infoseek.co.jp/1989527c1.html

サ ンゴ事件以来、部外者や広告主に会うたびに皮肉を言われ仕事がやりにくくなったのは事実だが、一柳氏の責任の取り方が見事だったという私の考えは変わらな いし、「犯人」の上司であるG氏を見るかぎり、写真部がそれほど傲慢な集団だったとも思えない。だがサンゴ事件の前にも広告主から朝日の記者はどうしてあ れほどエラソーな態度を取るのかと何回か苦情を受けたのも事実だった。

実はこのサンゴ事件の1年くらい前に直接、社会部記者に訊いたこと がある。夜の11時頃、地下鉄の駅に向かい歩いていたら偶然、知り合いの社会部記者S氏と出会った。この人が「広告の事情を聴きたい」というので居酒屋に 飲みに行くことになった。この時、私は「広告主からこういう苦情があり、朝日記者の評判が悪い」と切り出してみた。そうするとS氏は「で、広告は編集をど う見てるの?」と聞き返した。で、私は正直に広告でも態度がおかしいと批判する人がいると答えた。するとS氏は「具体的にどういう点か?」と聴いてきた。 そこで私が「整理部とかよく行くが、目の前にいるのにいつも書類を投げて渡される」と普段からの不満を言うとS氏はそれは誤解だという。自分たちがデスク (次長)に原稿を出すときも投げて渡してる、広告だから馬鹿にしてるとか妄想だと言った。その後、整理・校閲に上がる度に(編集局はどこの本社でも常に広 告のフロアの上にある)確認したが、この点に関しては確かにS氏が正しいようで編集には日常作業で書類を手渡すという習慣が無いようだった。

で、 またウィキのサンゴ事件の描写に戻るのだが、この事件に関する限り関係者はそれなりに誠意ある対応をしたと私は今でも考えている。私が書いてる文章は新聞 社の体質を激しく非難するものと和み系と両方ある。それは私自身が自分の体験に基づき、できるだけ客観的に書こうとしているためだ。結果として矛盾してく るのだが、私はむしろそれが当たり前だと思う。よく外務省を辞めた人などが、外務省を「悪の巣窟」のように決めつけているが、それは一面の真理を誇張して いるように思える。

という訳で朝日新聞社が関与する悪名高い「事件」はいくつかあるのだが、サンゴ事件に関しては事件は悪質だったが、そ の後の対応がそれほどひどかったという記憶はない。私が間違ってるのかも知れない。だがウィキの描写のキツサに違和感を覚えるのも事実だ。ちなみにこのサ ンゴ事件の数ヶ月後に私は朝日新聞社を辞めた。

私がこの文章でサンゴ事件の描写に異議を唱えているのは、自分が体験した限りではそう見えないからで、今さら、メディアに媚びを売るつもりなどさらさらない。正直であろうとすればするほど矛盾する、それは恐らく全容が見える人はどこにもいないからだろう。