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ビートルズ、オリコン、そしてカルト人気
ま
ず軽い新聞ネタから。前のエッセーで書いたように私は2年ほど広告審査・校閲の仕事をした後、広告営業に移った。広告校閲での仕事は非常に勉強になった。
何故かというと広告で出てくる漢字は全て読めるようになる訓練を受けたからだ。例えば藍綬褒章という言葉が出てきた時、私は読み方がわからず詰まった。そ
うすると先輩の校閲員が苛立たしげに「らんじゅほうしょう」と声を挙げた。藍綬褒章に限らないが、広告校閲の仕事でたくさんの漢字熟語や漢字の読み方を覚
えた。これは今でも役に立っている。仕事の訓練を受けながら国語力を上げた訳で、この点に関しては朝日新聞社に今でも感謝している。ここまでがイントロで
ある。
さてビートルズというのは校閲泣かせのバンドだ。何故なら、多くの人はビートル=カブトムシ=beetleと考えるからだ。実際に
はThe Beatlesなのだが、広告会社が持ち込む原稿でThe
Beetlesと書いてるものが実際よくあった。そして、この誤りに気がつかないと校閲員としてボロクソに言われ、下手すると始末書を書く事になる。そし
て何故か今、ビートルズのリマスター盤が非常に売れてるそうだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090914-00000028-oric-ent
ザ・
ビートルズの“リマスター盤”オリジナル・アルバムなど14作と、これらをセットにした『ザ・ビートルズ BOX』、限定盤『ザ・ビートルズ MONO
BOX』の2作の計16作が9日(水)に世界同時発売され、全作が9/21付アルバムランキングでTOP100入りした。16作品のTOP100入りは、
故・マイケル・ジャクソンさん(享年50)が今年7/20付で樹立した記録と並び、邦・洋アーティスト通じての歴代1位タイ記録に。また、今週のザ・ビー
トルズとしての売上金額は23.1億円(TOP100内総売上額)にもおよび、全アーティスト中でナンバー1となった。
はあー、ビートル
ズと言えば私が小学生の頃、流行っていたバンドだが、今時誰がアルバムを買うのだろうか?団塊の世代が昔を懐かしんで買ってるのだろうか?ちなみに私は小
学校4年までは歌謡曲、5年からはボサノバとモダン・ジャズを聞いた。マイルス・デービスやコルトレーンを聞く小学5年生というのもかなり不気味だが、
60過ぎて未だにビートルズを買う連中も同様に不気味だ。
意外と若い人が買ってるのかも知れないと思う。何故かというと最近の若い人の傾
向として、音楽自体にたいして意味を感じず仲間を作る際の教養的な「使い方」をしている人が多いように思えるからだ。それはビートルズやSASに限らず、
文学なら村上春樹、漫画ならハルヒとかが友達や恋人を作る際の「教養」として利用されているような気がする。例えば誰かが自分の部屋に遊びにきた時、こう
した「教養」がそろえられていると男性なら「こいつは信用できる」と思い、女性なら「最低限のセンスはある人」と評価する。つまり個人の好みを殺し「教
養」をあえてそろえることで仲間作りをしている訳だ。
上に挙げた層は比較的前向きな訳だが、そうした「教養」など邪魔くさい、自分にあわ
ないと考える人はカルトとかチーマーとかに関わることで何らかの連帯感を確保しているように思える。そう考えると、今の若い人はみんな寂しさを抱えてお
り、趣味へのこだわりとかカルトのいかがわしさを無視してでも仲間を作りたいのかも知れない。コインの裏表のようにビートルズCD、村上春樹、ハルヒとカ
ルト人気が併存しているのかと思う。ビートルズCDの売り上げの話を聞いて、私はそんな事を考えたのだった。
私はその反対でまず自分の価
値観があり、それと合わない人とはおつきあいしなくていいと考え生きてきた。そしてコンゴやアンゴラの音楽に美しさを見いだす日本人は多くて50人、少な
ければ数人しかいない訳で必然的に孤独であることに慣れてしまった。そのおかげで日本社会を客観的に見ることができるようになったから、それが悪いとも言
えないのだが。
ここからはエンディング/アウトロに入り、再び校閲の仕事の話になる。ビートルズが校閲泣かせの外国人ミュージシャンなら
松任谷由実が校閲泣かせの日本人歌手だった。多くの広告原稿が由実を由美と書いていたからだ。実際、実と美は見た目も似ている。美というのは羊が大きいと
いう意味で昔の中国人の美しさの判断基準は羊のサイズだったからだという。実も大きいほうが良いという考えから恐らく、下に大がついているのだろう。ここ
らの知識も校閲の仕事をしている時に覚えたのだった。禍福はあざなえる縄のごとし、当時はつまらないと考えていた校閲の仕事が自分の日本人としての教養を
作ってくれた事に今頃、気がつくのだった。
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