朝日不動産新聞

これは前の「通販CMは何故、へらないのか」の続きである。私が経験した範囲で言えば、広告主/業界には2つあると思う。広告効果を自分たちで測るシビアな広告主と曖昧なおつきあい的な感覚で広告を出す広告主である。

前 のエッセーで私がいた頃の朝日新聞は日本最強の広告媒体であると書いた。これには理由がある。80年代後半は不動産バブル全盛期であり、すさまじい量の不 動産広告が朝日新聞(東京本社版と大阪本社版)に掲載された。不動産業者というのは非常にシビアな広告主であり、何かの問い合わせがあると必ず「どの媒体 をご覧になられましたか?」と聞く。そこから始まり、最終的な成約率まで調べ上げる。その上でペイするなら広告をいくらでもだす。そして、80年代の朝日 新聞東京本社版はペイする広告媒体だった。それが朝日をTVをこえる日本最強の広告媒体にしていた。私達は自嘲気味に、朝日不動産新聞と呼んだ。

そうしたシビアな業界は他にもあり、 例えば旅行や通販もそうだった。この内、私が担当したことがあるのは旅行だけだが、JTBを始め広告主を廻っているうちに、結局のところ、この人たちは広 告がペイするならいくらでも広告を出すしペイしないならペイするまで広告料金が下がるのを待つという、媒体にとっては「嫌な広告主」ではないかと考えるよ うになった。

JTBなどもまた、広告を出して申し込みがあった場合、どの媒体を見て申し込んだかを調べる。そして最終的な成約率まで見る。それは広告主としては当然の行為なのだが、バブル期およびバブルが崩壊して数年はまだ「おつきあい」で新聞に広告を出す人たちもいたのだ。

大 体、広告効果なんて新聞社の広告営業でも皆目わからないのだ。実際、広告主から何度も広告効果の説明をしろと求められたが、いつも新聞社が制作している媒 体資料を渡し説明をする程度のことしかできなかった。そして新聞社が用意している媒体資料はABC協会という内部お手盛り組織が調べた押し紙こみの部数を 柱としていた。お手盛りとあえて言うのは、ABC協会が新聞販売店に抜き打ち検査をして部数を確認するという部分は、実は事前にどの販売店を調べるか ABC協会から事前通知があった上での出来レースだと私は聞いたからだ。ただ私は、販売の実態は正確に知らないので、あくまで広告局内部にそういう噂が あったという指摘をするにとどめる。

そして今、恐ろしいまでに景気は悪化している。もはや、おつきあい広告を出せるような広告主はほとん どいなくなったと言ってもいいだろう。となると不動産、旅行、通販という自分たちで「広告効果」を計りペイするなら広告を出しますよという業種が中心にな る。だが不動産も旅行も業界そのものが良くない。結果として、やたらと通販の広告が増える。通販の業者はまだ広告を出せる。何故なら、彼らは広告が採算ラ インを割るようなら、広告料金が十分に下がるまで広告を出さないからだ。

それがTVでの通販CMの異様な増加につながっていると思う。新 聞はTVよりは広告主が多様多種であり、通販広告で埋め尽くされるところまで行っていない。だが、すでに述べたように、こうしたシビアな広告主からの出稿 が増えるということは必然的に広告単価低下をもたらす。そして私の考えでは、すでに落ちるところまで落ちたように見えるのだが・・・・