意外と俗物的なアラブの役人

これまで欧州(パリ)、アメリカ西海岸、ブラジル、アフリカ(コンゴとケニア)に行った話をかいたがアラブ圏での体験を全く文章にしなかった。それは滞在が短く、あまり面白いことがおきなかったからだが、全く書かないのもバランスを欠くと思われるので書いてみよう。

私 は海外旅行をしても家族や知人用にお土産を買うことは滅多にない。だがアフリカに行った時は珍しくお土産を買った。家族と自分用に買ったのはマラカイトと 呼ばれる石だった。濃いエメラルド・グリーンをしており表面には渦巻き模様が見える美しい石をお土産用にコンゴ人が磨き上げたウズラの卵そっくりの代物 だった。マラカイトは銅を掘る時に副産物として出るらしく、鉱物資源が豊富なコンゴでは外国人向けお土産アイテムの1つだった。

話が逸れるが知らない人が多いので何故、アフリカの背骨と呼ばれることもあるアフリカ中央部は鉱物資源が豊富なのかを説明しておこう。

物 質には重いものと軽いものがある。ウランや金、銀といった重い物質は地球が冷えて固まる過程で地底深く沈みこんだ。ところが大昔、アフリカ中央部で大きな 火山活動があり、その時に深い部分のマグマが地表に吹き出て固まった。キリマンジャロもその一部である。そうした深い部分から出てきたマグマはウランや 金、銀という重い物質をたくさん含んでいる。その為にアフリカの中央部には他の地域ではあまり産出しない鉱物資源が存在する。これはアフリカ音楽にはまっ た時に勉強して知った。

当時はサラリーマンをしており会社の同僚にお土産なしとはいかない為にナイロビで現地産のワインを3本買った。そ う、ケニアには地元ワインがあるのだ。これはケニア西部にあるキリマンジャロ山麓で作っていた。私は飛行機で上空を通っただけだが、飛行機の下に雪をいた だいたキリマンジャロを数分眺めることができた。目をこらすと凍りついた豹の死体も見えたような気がする(←何のことかわからない人はヘミングウエーで検 索してください)。

で、重たいワインを抱えたまま私は経由地のアブダビに入った。そう、私は今、話題のアブダビに2日ほど滞在したことが あるのだ。アブダビに入国する際にナイロビで買った貴重なワインを一時預かりの形で現地入国管理事務所に取られてしまった。今はどうか知らないが、当時は アルコール持込禁止が守られていた。さすがアラブ圏だなと私は感心したのだが、これは大きな間違いだった。

出国する際に、書類を出しワイ ンを返せと言ったところ、アブダビの役人は平然とワインは無いと言った。無いわけがあるか、この書類を見てみろ、ちゃんとワイン3本一時預かりと書いてあ るだろうと私は激しく抗議したのだがアブダビの役人は「無いものは無い」と言い、「オマエ、疑うなら保管庫に入って自分で探せ」と言った。私はこの役人を こらしめてやるつもりで保管庫に入ったのだが本当に無くなっていた。私があんまりしつこく探すものだから役人は「オマエのワインが無くなったのは非常に不 幸なことだ。見返りという訳ではないが、この保管庫にある酒数本を持ち出してもよい」と言った。だが私はアフリカ土産としてわざわざナイロビのワインを 買ったのであり、ウイスキーをもらっても全く意味が無かった。

日本に戻ってから旅なれた人にこの話をしたら、アブダビの役人はアルコールが好きで美味しそうなものはみんな飲まれるくらいは常識だと言われた。アブダビの役人も人間だからそういう事はあるかも知れないが、お陰で私は会社の同僚から「土産も無しか」と白い目で見られた。

こういう事情があるために今、おきているドバイやアラブ首長国関連の金融危機を聞いてもあまり同情する気がおきない。むしろアラーの当然の報いとすら私は思うのだ。インシャラー。