ヴィニシウス・ジ・モラエス、かく語りき

ヴィ ニシウス・ジ・モラエスというと日本では「イパネマの娘」などのボサノバ曲の作詞者として知られているが、この人は正統な文学者である。私が聞いた話では 彼の詩"Rosa da Hiroxima"(広島のバラ)はブラジルの国語教科書に載っているという。この詩はヴィニシウスの反米主義が出ていて私はあまり好きでないのだが、 ヴィニシウス・ジ・モラエスという人が実に魅力的な人だったのは確かだ。

元々、この人はオックスフォードを出た後、ブラジルの外交官試験 に受かり外交官をやっていた。駐パリ大使をやってる頃は、当時ドイツのバーデン・バーデンに住んでいたバーデン・パウエルというギタリストを呼び、パー ティーの会場で大使自らサンバを歌い踊ったという逸話がある。何故、70年代最高のギタリストとも呼ばれたバーデン・パウエルがリオからドイツのバーデ ン・バーデンに移り住んだのかという部分からしてボサノバにつきものの奇人変人伝説の「かをり」が漂う(笑)。他にも風呂が好きでメディア・インタビュー を風呂に入ったまま受けたなどの奇行が報道されている。

正直言うと私はこの手のラテン・アメリカ的奇行が好きだ。ノーベル文学賞を受けた コロンビアの作家ガルシア・マルケスは受賞式の後、カラカスに戻った。そこでオリノコ河に飛び込み河の真ん中でウンコをしたという報道がある。何故、マル ケスが河に飛び込みウンコをしたのか動機が不明だが、いかにもラテン・アメリカ的なエピソードで私は好きだ。

ところでヴィニシウスの日本語wiki記述を読んでいて私は不審に思った。

引用

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%82%B7
%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%82%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%8
3%A9%E3%82%A4%E3%82%B9

詩才に優れ、数カ国語を操るなど非常に多彩な能力を発揮する一方で、その生涯に9度結婚・離婚を繰り返したほどの「恋多き男」であり、また希代の大酒豪でもあった。気難しい性格で奇行でも知られ、数々の風変わりな逸話を残す。

引用終わり

9 回の結婚?そんな事はないだろう。私が昔、ヴィニシウスが生きていた頃聞いた話では、50歳を過ぎてから20回結婚したと書かれていた。さすがに長年の友 人であるアントニオ・カルロス・ジョビンがあきれて「キミは一体、何回結婚するつもりだ?」と訊いたところヴィニシウスは「必要なら何度でも」と答えたと いう記事を読んだことがある。一体、20数回の結婚はどこに消えたのか?これだからwikiは信用できない(笑)。

大体、ジョビンも3回結婚をしたと記憶している。ジョビンの初期の名曲に「浜辺のテレーザ」(Teresa na Praia)がある。だが、この初期名曲は最初の奥さんテレーザに捧げた曲のため奥さんが変わってからジョビンは演奏できなくなったと言われている。。

最 近、若干懐メロ的になっている私はヴィニシウスの名曲「サンバ・ダ・ベンソン」(祝福のサンバ)を動画サイトでよく聞いている。この曲にはいくつかバー ジョンがあるのだが個人的にはla fusaというアルバムに入っているのが一番好きだ。この9分近い曲はほとんどがヴィニシウスの語り/ラップにより成 り立っているのだが、語りの中の「オレは白人だが心はブラジルで一番、黒い」という部分を聞くたびに、この愛すべきアルコール中毒患者の素晴らしい人生を 私は思い出すのだった。