奇貨おくべし

奇貨おくべしという表現は割りと 使用されるが、その意味を理解している人は少ないように思う。そこで自分の考えを書いて見るが、実は「奇貨おくべし」という表現と悪貨は良貨を駆逐すると いうグレシャムの法則はコインの表裏をなしている。こういうと少しは驚かれるかたもいるかも知れない。そこで「奇貨おくべし」という表現の由来を見てみよ う。

昔の中国ではインフレが激しかった。当時の中国、と言っても私は漢文の素養が無いのでいつのことかわからないが、では金貨が通貨だっ た。当時の中国ではインフレによる通貨価値の毀損が激しかった。正確には財政難から中国政府が金貨に含まれる金含有量を減らした新しい通貨を何度も発行し たのだ。発行するごとに金の含有量が下がっていったために結果として通貨価値の毀損がおきインフレが加速した。だが、この頃はマスゴミもS&Pな どの格付け会社も無いために、国家破産論はおきなかった。ある意味では幸せな時代だった。

この頃の中国では昔の通貨も流通していた。だ が、昔の通貨も現在の通貨も同じ価値(パリティー)であると政府は宣言していた。実際に中国の田舎では昔の通貨が流通していたらしい。そうした田舎から出 てきた男が北京とか上海と言った都会に出てきて居酒屋に入ることもある。その時、支払いを昔の通貨で行う。そうした通貨は都会ではすでに流通していない珍 しい形をした通貨、つまり奇貨である。

そうした奇貨での支払いは居酒屋にとっては痛し痒しである。何故なら見慣れぬ通貨だから偽物の可能 性がある。だが、もし昔、流通していた通貨なら今、流通している通貨より金含有量が高いから、両替商にもっていけば高い値段で買い取ってくれる。つまり 「奇貨おくべし」という表現は、もし居酒屋の支払いに金含有量の高い昔の通貨が使用されたら不平不満を言わずに黙って受け取っておけ、何故ならその奇貨は 政府が定めたレートより高い価値を持つからだという意味なのだ。もっと簡単に言うと「チャンスを逃すな」である。

一方で良く知られている 悪貨は良貨を駆逐するというグレシャムの法則は、もし2つの金貨があって、2つの金貨が同じ価値(パリティー)だとして、もし、この2つの金貨の金含有量 が違った場合、市場で流通する金貨は全て金含有量が低いほうに統一されることを指摘している。何故かと言うと、金含有量が高い金貨は溶かして、金として 売ったほうが利益になるから市場から消え去るためだ。

こうして見ると「奇貨おくべし」という表現は中国版「悪貨は良貨を駆逐する」という グレシャムの法則そのものだったのだ。お金で見る限り西も東も大差ないようだ。では日本ではどうだったかというと非常に荒っぽい表現をすれば江戸時代の日 本は金本位制の江戸と銀本位制の大坂(大坂は大阪の旧地名)に分かれていた。そのために金と銀を両替する膨大な需要があった。三菱、三井、住友といった日 本の財閥は江戸時代に両替商をやり、財閥としての地歩を築いたと私は理解している。

急に今の話に戻るのだが、loonieとも呼ばれるカ ナダ・ドルがアメリカ・ドルと同じレート(パリティー)になっている。昔、私がアメリカ人と話をしていた時にカナダ・ドルの話題になったのだが彼らはカナ ダ・ドルをnorthen peso(北のペソ)と呼んだ。もちろん、これはメキシコ・ペソがアメリカ・ドルに対し安くなり続けたように、大きな財政赤字を抱えるカナダ・ドルも同様 に安くなったことを皮肉ったものだ。

それは良いとして、もし今のアメリカ・ドルとカナダ・ドルが等価(パリティー)の状態がずっと続くなら北米共通通貨アメロも抵抗無く生まれるだろうなと私は不安な気持ちで考えるのだった。