キミは魔法を信じるかい?

黒人音楽と魔法/呪 術は密接に結びついている。一番、知られている例はサン・ハウスと並ぶ初期ブルースマンだったロバート・ジョンソンが悪魔に魂を売り、泥沼にひきずりこむ ようなブルースの魔力を見につけたというものだろう。実際、ロバート・ジョンソンはある時期までは凡庸な音楽家だった。それがフラッといなくなって戻って きたら魔力を放つ演奏をしたというのがこの伝説の由来らしい。彼は27歳の若さで亡くなったのだが、それは悪魔が「支払い」を求めてきたという説がある。 本当かどうかはいまだに検証されてない(笑)。

コンゴだと魔法はもっとハッキリした形で日常生活に存在する。コンゴにおいて魔法は2つに分類される:

1.ンキシ(nkisi): 何らかの成功をもたらす魔法
2.ンドキ(ndoki): 他人を呪う魔法/呪い

そうした魔法をかける人はンガンガ(nganga)と呼ばれる。ほとんどは老齢の女性だ。こうした魔法は普通に信じられている。コンゴ音楽の巨匠フランコの曲にも「ンガンガだっていつか死ぬ」という有名なフレーズがある。

レディー・アミシ(Reddy Amisi)という男性歌手がヨーロッパを中心に活動し音楽的成功をおさめた。彼がキンシャサに凱旋公演を行った時に、空港に詰め掛けた女性ファンが暴徒と化し数人が圧死した。

こ れは恐らく、空港の警備不届きだと私は思うが、キンシャサの音楽雑誌(Disco Magazineなど)は「レディー・アミシは音楽的成功をおさめる為にンキシを使った、圧死した数人の女性ファンはンキシの当然の犠牲/いけにえとなっ た」と書きたてた。まあ、日本の新聞やTVも似たような報道を日々、行っている。日本バージョンはホッケを煮つけで食べる者は政治家として呪われている というものだ。メディアを見る限り、コンゴも日本も同じレベルにあるようだ(笑)。

コンゴ出身で恐らくアフリカ音楽史上、最も成功 したグループ、ザイコ・ランガ・ランガが日本公演を行った時に神宮さんというコンゴ音楽評論家がヤ・レンゴスという歌手にインタビューを行った。そのイン タビューの中で神宮さんは「キンシャサではあなた達の成功はンキシによるものだと言われているが、この点をどう思うか?」と訊いた。するとヤ・レンゴスは 「馬鹿馬鹿しい、オレ達はクリスチャンだ。そんな迷信は信じてない」と答えた。

私は、この神宮さんのインタビューを英語に翻訳して英国人 DJマーティン・シノックに提供した。そうするとマーティンは「ヤ・レンゴスはそう言うだろうがヤツの顔は青ざめてなかったか?」という皮肉な返事をよこ した。マーティン・シノックはヤ・レンゴスの発言を全く信じていなかった。大体、コンゴのキリスト教は西欧のキリスト教と土着宗教の混ざった得体の知れな いものであり、ヤ・レンゴスが自分はクリスチャンだと言っても、それは一般に知られるキリスト教とは相当にかけ離れたものだ。そうした宗教向け音楽はレリ ジョンと呼ばれ、コンゴではアメリカにおけるゴスペル並みの人気を誇っている。

そうした魔法/呪術はアフリカとか昔のアメリカの話だと思 われる方がいるかも知れないのでブラジルの話をしてみよう。バーデン・パウエルという人によっては70年代最高のギタリストと見なす演奏家がいた。バーデ ンは最初の奥さん(私の記憶が正しければテレーザという人)と70年代に別れた。ところが、この奥さんはバーデンをうらみリオで最も力が強いマクンバ呪術 師のところにいき、バーデンが死ぬような呪いをかけた。それを人聞きに知ったバーデン・パウエルは青ざめ、即座に別のやはり強力な力を誇るマクンバ呪術師 を訪れ、彼女の呪いを無効にするよう求めた。もちろん大金が支払われた。

ところがバーデンはそれだけでは心の不安がおさまらなかったらし く「カカラカカ」という曲を書いた。この曲は「オマエの呪いなんかオレはちっとも怖くない。笑い飛ばしてやる、カカラカカ(笑い声)」という歌詞だった。 この曲はエリス・レジーナという歌手が歌い、ブラジル・ポップス史上に残る大ヒット曲となった。これは一応、本当の話である。

アフ リカ人や黒人は迷信深いなとアナタは思われるかも知れない。だが日本においても意味不明な崇拝は日常にある。例えばお地蔵さんである。私の住んでる町のあ ちこちにお地蔵さんがあり、ちゃんとお供えものが前においてある。だが、このお地蔵さんは仏教でいう地蔵菩薩のことなのだろうか?私は違うと思う。恐ら く、何故、日本の各地にお地蔵さんがあり今も崇拝されているのか誰にも説明できないのではないだろうか?