アフリカの河と奴隷貿易
2010.09.18
(このエッセーは2003年頃に書いたものに加筆しました)

私 は奴隷貿易におけるカビンダというコンゴの中にあるアンゴラの飛び地の役割を重視している。それは奴隷貿易が河に沿って行われたと考えるからだ。奴隷を 「積み出す」ためには良港が必要だったからだ。アフリカ大陸で最長の河はナイルだが、ブラック・アフリカで最長の河はコンゴ河だ。

そこでアフリカの地図を見てアフリカのめぼしい河をチェックしてみた。

コンゴ河:コンゴ
ニジェール河:ナイジェリア
ザンベジ河:モザンビーク
リンポポ河:モザンビーク
クワンザ河:アンゴラ
セネガル河:セネガル
ヴォルタ河:ガーナ+トーゴ
シャリ河:カメルーン
クネネ河:アンゴラとザンビアの国境
オレンジ河:南アフリカ

こ の中でもコンゴ河とニジェール河の規模はずば抜けている。またモザンビークに2つ大きな河があるのも興味深い。初期の奴隷貿易はコンゴ/アンゴラとニ ジェール河周辺+モザンビークだったというのが私の主張で、それはこうした河の存在が大きいと考えるからだ。だが自分の思いこみばかりを主張してもしかた ないので、具体的な数字を出してみよう。

(下の数字は古いかも知れない。何故ならこの文章そのものが昔、書いた文章のリサイクルだからだ)

Region Number of slaves (地域別奴隷数)

Senegambia: 479,900 4.7
Upper Guinea: 411,200 4.0
Windward Coast: 183,200 1.8
Gold Coast: 1,035,600 10.1
Blight of Benin: 2,016,200 19.7
Blight of Biafra 1,463,700 14.3
West Central: 4,179,500 40.8
South East: 470,900 4.6

Total 10,240,200 100.0

原典

Transformations in Slavery
Paul E. Lovejoy
Cambridge University Press, 2000,
ISBN 0-521-78430-1

West Centralを中央アフリカ西部だと解釈すればコンゴやアンゴラ系が実に全体の40%以上になる。では、彼らはどこに連れていかれたのか?

Region Number of slaves (奴隷受け入れ先)

Brazil 4,000,000 35.4
Spanish Empire 2,500,000 22.1
British West Indies 2,000,000 17.7
French West Indies 1,600,00 14.1
British North America and United States 500,000 4.4
Dutch West Indies 500,000 4.4
Danish West Indies 28,000 0.2
Europe (and Islands) 200,000 1.8

Total 11,328,000 100.0

原典

The Slave Trade
by Hugh Thomas
Simon and Schuster, 1997,
ISBN 0-68481063-8

こ のデータを見るとブラジルの異様な高さが目に付く。そしてアメリカの予想を裏切る低さも実態と違うような気がする。だがこの数字は多分ハイチ革命の時に当 時フランス領だったルイジアナに逃げてきたクレオールとかを含んでない数字なのだろう。、ちなみに、このルイジアナ州のクレオール人がジャズを生んだと私 は考えている。

このサイトを訪問するかたは私がコンゴやアンゴラ地域の音楽ファンだから、コンゴやアンゴラの影響ばかり書いていると思われるかも知れない。だが、奴隷貿易のデータもコンゴやアンゴラを含む中央アフリカが奴隷供給の最大拠点だったことを裏付けている。

ところが現実にはナイジェリア、特にヨルバ族・ヨルバランドがアフリカにおける故郷とキューバでもブラジルでも考えられている。それはヨルバの宗教体系がアフリカの中で最も洗練されており、原始的なコンゴやアンゴラの宗教を圧倒した結果だと私は考える。

数年前に、こうした主張を始めた頃は、「独善的」と結構ボロクソに言われたものだ・・・・・ 奴隷貿易のデータを出してきて黒人音楽を論じる人は当時も今もほとんどいない。誰も興味ないからね・・・・