恐ろしく現実が見えない人たち
2010.09.21

(この文章は2004年に書かれたようです)

サ ラリーマンをやってた頃、職場の先輩から「君は岩波の本はどのくらい読んだ?」と聞かれた。私が1冊も読んだことがりませんと答えるとその人は呆れ、 「君、よくウチに入れたな」と感心した。別に2chで流行っている反岩波思想に染まっていたわけではなく、ただ岩波書店の本に読みたい本が無かっただけ だ。現に、その後、椎名誠さんが岩波から出した文庫本はちゃんと買って読んだ。これまでの人生での唯一の岩波体験である。ということで最初に今の時流に媚 びてこのエッセーを書いているのではないことを釈明しておく。

さて2004年8月に森嶋通夫ロンドン大学教授が亡くなられた。日経の記事 によるとノーベル経済学賞に一番、近かった日本人だそうだ。当然、私は経済学の分野での業績をどうこう言うつもりはない。問題はこの人の「防衛論」であ る。いやむしろ「自殺論」というべきなのだがそれはどういうものかというと、

引用

森嶋氏の防衛論の特徴は第2点目にあ る。「それでも、もしどこかの国が日本に攻めてきたらどうするのだ?」という問いに対し、森嶋氏は「毅然として、威厳を保ちつつ秩序整然と降伏する」と答 える。つまり、「無抵抗降伏論」である。「徹底抗戦して、玉砕して、その後に猛り狂った敵軍が来て惨憺たる戦後を迎えるより、秩序ある威厳に満ちた降伏を して、その代わり政治的自決権を獲得する方が、ずっと賢明だ」というわけである。

引用終わり

まあ学者バカとはよく 言ったものだ。森嶋氏は北朝鮮との「緊張関係」が高まっても自説を曲げず去られた訳だが、ロンドンに住んでいたからこういう現実離れした意見が言えるので 日本に住んでても同じ意見を言われただろうか?北朝鮮は軍備を拡張する一方で国民を餓死させても平気な国である。その北朝鮮が攻めてきた時、整然と日本人 と自衛隊が降伏したらどうなるか、考えただけでもぞっとする。

ところで森嶋通夫氏の著作は現在、25冊出版されている。その内19冊は岩 波書店、2冊は朝日新聞社から出ている。はあー、岩波の本をこれまで読まなくて良かった、私はしみじみと思うのだった。森嶋氏は戦争に関する国民の意識を 高めるために意図的に逆説を唱えられたと信じたいが、しかし日本国民の多くがそうした逆説を森嶋氏の本音の主張と考えるわけで、もう少し「丁寧な」議論は できなかったのだろうか?それとも本当に相手が北朝鮮でも整然と降伏すべきと考えておられたのだろうか?これは出版元である岩波書店と朝日新聞社に是非、 聞きたいところだ。

いずれにせよ森嶋氏は地獄を見ることなく去られた。世の中には恐ろしい人たちがいる。