黒い猫と白い猫
2010.09.21

さて、私が朝日新聞社で働いていた時代、私は チリのワインをかなり飲んだ。それは白猫(Gato Branco)や黒猫(Gato Negro)、あるいはコンチャ・イ・トーロとかサンタ・エレーナだったりした。今でもこうしたチリのワインは値段の割には悪くないと思う。ブラジルに 行った時に何回もワインを注文したが、ほとんどチリ・ワインが出てきた。実はブラジル南部(寒い地域)ではドイツ系移民によるリープ・フラウ・ミルヒなど が作られていたのだが・・・

ある日のことである、私はそうしたチリ・ワインの輸入元が愛知県豊川市にあることに気がついた。私は土曜日の休みを利用して、この会社を訪問した。

会 社/お店に入った時はすでに午後だった。私が「すいません、ワインを買いにきました」と怒鳴ると、事務所のドアが開き、女子社員が現れた。彼女はどういう ご用ですかと聞いたので、普段からチリのワインを飲んでるが、今日は輸入元であるおたくまで買い付けに来たと私は言った。

窓ガラスのカー テンが明け放れ、私は会社/事務所の応接に座ることになった。待つこともなく、男が現れた。この人が会社の社長さんだった。「ほう、名古屋からわざわざウ チのワインを買いに来ていただいた」と社長さんは言った。社長さんは「お車で来られたのですか?」と尋ねた。名古屋はトヨタの本拠地であり、車が当たり前 の土地だった。私は「名鉄電車で来ました」と答えた。そうすると社長さんの目が怪しく輝き「そうですか、なら大丈夫ですね」と言われた。何のことかいなと 私が思っていたら部屋の片隅にある大きなワイン・クーラーからスパークリング・ワイン数本が引き出され、私の前に置かれたグラスに注がれた。何というか、 実に豪快な世界なのだ(スパークリング・ワインはシャンペンのようなものと簡単に説明しておく)。

それからは酒池肉林の世界であり、あのワインがうまかったと言えばすぐにクーラーから引き出された瓶が抜かれ社長さんと私の二人でサシで楽しむ世界が始まったのだった。この社長さんは正直な人で、安ワインにチリのワインが多く使われている理由とか率直に説明された。

し かしワイン・クーラーにあるワインが次々に抜かれていくので酒が強い私もかなり酔っぱらった。社長さんも酒が強いらしく、ほぼ互角の勝負だった。やがて我 々は、白い猫(Gato Branco)でも黒い猫(Gato Negro)でも美味しい猫が良い猫だと、どこかの国の指導者のようなことを口走り豊川の夜はしんしんとふけていったのだった。あれは19の春だった(← もはや歳がわからないほど酔っている)。

ピース&ラブ(笑)