バベルの図書館への疑問
2010.09.30
アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイ
ス・ボルヘスの昔、読んだ作品に「バベルの図書館」という短編がある。これは宇宙の一角に存在する文字で表記できる文章を全て文章化して本にしたものを集
めた図書館の話で、この図書館には宇宙の成り立ちから人類の歴史あるいは未来までありとあらゆる事象が書きしるされているという。
最初こ
の作品を読んだ時は素晴らしいスケールのラテン的なファンタジーだと感心したが、最近この話は文学としてはOKかも知れないが大きな論理的矛盾をふくんで
いることに気がついた。話を簡単にするために、文字を英語のアルファベットと数字に限定しよう。確かにボルヘスの言うように乱数的に文字を並べていけば、
英語で表記できる範囲で森羅万象全てがバベルの図書館に収蔵しうる。
だがボルヘスの小説は、その恐ろしいまでの数の蔵書の中からどうやって自分の求める本を見つけるかについて全く考慮していないのだ。これではアンドロメダ星雲ほど広い図書館の中を探している内に寿命がきてしまうだろう。それは実質的に「本が存在しない」ということだ。
も
う1つの疑問は偶然に自分が知りたいテーマを含む本を見つけてもそこに書かれていることが真実かどうか判断しようがないのだ。アルゴリズムで書かれた文章
の真贋をどうやって判断するのか?人間が書いてるから「信じよう」という気になるのだ。真実が書いてあるかどうか保証の無い本を探して読む人が果たしてい
るだろうか?
つまり、このボルヘスの有名な掌編は考えれば考えるほど意味がないのだ。ラテン的誇大妄想ロマンティシズムとしてはおもしろいのだが。
そして私は全く小説を読まないようになってしまった・・・・
追記
昔、英国の音楽テクノロジー雑誌、Sound On Soundを定期購読していた頃に読んだ記事で、あるアメリカ人が西洋音楽で表記できる全てのメロディーを作り出すアルゴリズムを考え出したと書かれていた。
雑
誌SOSの報道によると当時、特許申請中であり、もしこのアルゴリズムの特許が認められるならそれ以降発表される全ての西欧的な曲の著作権がこのアメリカ
人に所属することになるという。結局、この特許は認められなかったようだ。この話は音楽版「バベルの図書館」だ。色んな人が色んな事を考えるものです
(笑)。