ヨルバの神話体系を考える
2010.10.02

ブラジルとキューバというはるかに 離れた国がほとんど同一のアフリカ系宗教を持っているというのは長年私の謎であった。例えばオリシャと言えば神々であり、オグンというのは戦いの神であ り、イエマンジャというのは海や水に関係する女神である。他にもオチュンとかオバタラとかあるのだが、何故ブラジルはサンバでキューバはルンバ(ソンや チャチャチャ)なのに神話は同一なのか、この神話はヨルバ族の神話なのだがヨルバというのはそれほど影響力があったのか、私はここらあたりが長年不思議で ならなかった。

まず1つ確実なことを指摘しておきたい。ブラジルとキューバがほぼ同一のアフリカ系宗教を持っているということはそうした 宗教は比較的最近取り入れられた可能性が高いという点を。言葉は日常生活で使われていくうちに崩れなまっていく。それがブラジルとキューバのヨルバ族神話 に出てくる神々の名前に、それがないということはそうした神話は最近、恐らく19世紀に一挙に広まったために両国において言葉がなまることなくヨルバの名 前どおり使われていると私は考える。

ここらあたりは仏教と比較するとよくわかる。日本語ではナンマイダブツというがタイやニャンマーなどでは微妙に発音が違っている。これは長年の間に元々のサンスクリット語がなまったからだ。

これは実は奴隷貿易の流れから見ても妥当な考えであり、コンゴを中心としたバントゥ族が初期、ポルトガル人によってブラジルとキューバに送りこまれたが、奴隷貿易の最後にかけては西アフリカが多かった(正確には西アフリカも含む多様な地域)という事実がある。

つまりヨルバ族の神話体系を中心に新大陸のアフリカ系文化が作られたのではなく、アフリカ系文化がほとんど確立された時に最後の決定打としてヨルバの宗教が持ち込まれ、ブラジルやキューバのアフリカ系宗教文化が一応の完成を見た。

と ころでヨルバの神話体系の中でも水の女神イエマンジャは頻繁に歌に歌われどうしてこの女神が特別に重視されるのか私は不思議に思っていた。その答えはニ ジェール川にあると考える。ナイジェリアの中心をニジェール川が貫いて海に抜けている。当然、この川を中心にした交易や交流があったと思う。これはリンガ ラ語の成立にコンゴ川が果たした役割を考えればわかる。そしてニジェール川がある程度の繁栄と文化、特にアラブ商人との交流をもたらし、それがヨルバ神話 の確立へとつながったのではないかと考えるのだが・・・・