ムシマというキーワード
2010.10.02

(2004年頃に書いた文章。内容にはすでに書いた部分がありますが、後半にかけて重要な指摘をしてるのであえて、そのまま掲載します)

多 くの音楽には重要な役割を果たすキーワードがある。ブラジルならサウダージ(saudade)でありスペインならラ・ソレダード(la soledad)。サルサならエル・サボール(el sabor)コンゴ音楽ならマレンベ(malembe)などが頭に浮かぶ。意味は簡単に説明できるようなものではないので省く。

ところで アンゴラの音楽を聴いてて私は彼らがサウダージという言葉をあまり使わないことを不思議に思った。代りによく使われるのがムシマ(muxima)という言 葉で、これは心という意味だ。恐らくリンガラ語のモテマ(motema)に相当する単語だと思う。モテマもコンゴ音楽でよく出てくる単語でよく使われる表 現はMotema na Ngai(私の恋人;英語でいうmy sweetheart)。コンゴ音楽では熱愛を歌い上げることもあれば悲恋を嘆くこともあるのだが、アンゴラの音楽においてムシマはいつも悲しげなある種 の絶望感を漂わせている。少なくとも私が過去に聴いたアンゴラの歌ではそうだった。ちょうど"Muxima"という曲が見つかったので聴いていただきた い。アルバムの6曲目だが最後まで全部聴ける。演奏しているのはブラジル人だがムシマの雰囲気はまさにこれだ:

http://www.cafemusic.com.br/cd.cfm?album_id=56

さらにムシマについて調べると下のユネスコのサイトが詳しい情報を提供していた:

http://whc.unesco.org/events/gt-zimbabwe/Tentative%20Lists.htm

簡 単に説明すると、アンゴラの首都ルアンダは良港であり奴隷の積み出し港として最適だった。ルアンダにはクワンザ川が流れこんでおりこの川をさかのぼって奴 隷集めが行われた。そうしたポルトガル人の活動の中心がクワンザ川の左岸にあるムシマ村に1599年に造られたムシマという教会/要塞だった。

ム シマに集められたアンゴラ人はキリスト教の洗礼を受け「出荷」されたという。以降は私の推測でしかないが、自分達の信仰を持つアンゴラ人にとって奴隷にさ れさらに強制的に洗礼を受けさせられたというのは自分達の心/魂を奪われるような体験だったのではないだろうか?その悲惨な歴史からムシマというアンゴラ の音楽のキーワードが生まれたと私は考える。ムシマに込められた感情はサウダージ(過去への郷愁、未来への憧れ)というある意味では「穏やかな感情」をは るかに超えていたのだろう。

ところでユネスコの文書ではクワンザ川周辺から狩り集められたアンゴラ人はアメリカに送られたと断定的に書いている。フィリーペ・ムケンガやアンドレ・ミンガスと言ったアンゴラの優れた歌手のジャズ志向と何か関係があるのかと気になる。

最 後にこの文書はクワタ・クワタ戦争 (wars of "kwata-kwata") も触れている。これは何かというと奴隷狩りがもうかるためにアフリカ人の間で強いものが弱いものを狩り白人に売ることからおきた争いだ。どこまで真実かは 知らないが、コンゴ王国がある時点まで栄えたのはまさにこの「利益」があったからだという。ところが行為が行きすぎた為に人口の減少が起き、コンゴ王は ヨーロッパに抗議したという歴史があると私は聞いた。