ワールド音楽が失速した理由
2010.10.07
(2002年の文章に加筆しました)
ワールド音楽が失速した理由は何か?これは簡単で最初から離陸してないからだ。「ワールド音楽って何かカッコいい」という幻想だけがあり、実態は無かったと私は考える。普通に考えても、日本人がアフリカやアラブ、ラテン・アメリカ諸国の音楽に共感する理由がない。
ところでアフリカやカリブにはそうした地域ならではの音楽産業が育たない理由があった。ブートレグである。特に違法K7(カセットのこと。フランス語ではこう書く)の氾濫は凄まじい。
LPやCDが発売されると1週間後にはK7が恐ろしく安い値段で出回る。だからどんなに良いアルバムを出してもアーティストはほとんどもうからない。もうからないからプレス枚数を減らしてラジオ局と関係者だけに配れる枚数にしぼる、コンゴ音楽はずっとこの悪循環にある。
ところが最近ネットで読んだハイチの事情もひどかった。
ロ
ベール・マルティーノというギタリストがいる。ハイチを代表するギターの名人である。最初はスコーピオというグループにいた。その後人気が出て、今はトッ
プ・ヴァイスとかジプシーズという自分のグループのリーダーをやっている。最近、彼は自分たちがホテルでやった演奏が勝手にCDにとして発売されているの
を見つけた。そのCDには注文受け付け用の電話番号が書いてあった。頭にきたマルティーノはそこに電話した。
電話に出たフィリップという
NYの男は、自分達がそのCDを作っていることを認めた。だが謝罪と賠償を求めるマルティーノに対する答えは「ハイチに帰ったら?」だったという。マル
ティーノは2002年10月時点で訴訟を検討中だが、恐らく訴訟の頃にはフィリップという男はもう別のビジネスをしているのだろう。
とも
かくハイチのブートレグはすさまじい。業界筋は、システム・バンド、スイート・ミッキーなどの人気音楽家のCD1000枚パックが卸しで4ドルで売られて
いるという。アルバム千枚詰め合わせが4ドルです(笑)。これはWindows on
Haitiとかのハイチ音楽紹介サイトで読んだ話なのだが、恐らく本当なのだろう。
これまでハイチの音楽は素晴らしい内容なのにどうして
売れないのか不思議に思っていたが、この話を読んで納得した。要するにビジネスとして成立する条件がないのだ。最近、お気に入りハイチ音楽バンドだった
NYAS(ニューヨーク・オールスターズ)が解散した。原因はベース奏者のアベルがライブ・コンサートを勝手に録音してそのマスターテープを数ドルである
レコード・レーベルに売ったためだという。頭にきた他のメンバーはもうバンドを捨ててしまい他のバンドに移った。
ところが、このライブ・コンサートは実は最初から存在しておらず、スタジオ録音に観客の拍手と歓声を加えただけのインチキ・ライブだったという説もある。こういう時にハイチ音楽の底なしの深さを知るのだった(笑)。
(NYASのサイトに一時期、置かれていた1時間近いライブmp3は確かにインチキ・ライブだった。これは実際に自分の耳で聴いた)