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キャズムが示すお寒い英語事情 2011.02.19
今
朝、起きてkvraudioという世界最大の音楽制作者BBSを読んで大笑いをした。あるドイツ人が「このリバーブがこの値段だ。ためらう事無く買いだ」
というスレッドを立てた。これに対し英語ネイティブが「本当にためらう事無く買いと言えるのか?」と反論した。これに対しドイツ人が「オマエの言ってるこ
とがわからん。オレはドイツ人だ。オレにはユーモアのセンスが全く無いんだ」と返答したのだ。もちろん「オレにはユーモアのセンスが無い」という反論自体
が高度なユーモアであり皮肉になっている。そこが可笑しかった。
何回も書いたように私はLとRの発音区別がつかない。他方で語彙は非常に
豊富であり、そこをアメリカ人にからかわれた事は何回かあった。私はいつも"Good rack on your errection. Thank
you very much, sir."と嫌みたっぷりで返答したものだ。勿論、相手のアメリカ人は不愉快な表情をした。
(ここではno-brainer dealを「ためらう事無く買い」と訳しています)
さ
てイントロが長くなった。この文章の主題はキャズムである。ITジャーナリストの佐々木俊尚氏に対しTwitter経由で「キャズムじゃなくてカザンで
しょ?」と反論を送った。一昨日のことだ。元々の英語はchasmである。私は複数の英単語発音サイトをまわってmp3を聞いたが、みんなカザンないしは
カズンと発音していた。
ところで、このキャズムは誤訳から始まったらしい。
引用
Amazon.co.jp
ジェ
フリー・ムーアの名を世に知らしめ、初版刊行の1991年以来売れ続けているハイテク関連企業のバイブル書が改訂され、邦訳で登場。「キャズム理論」とし
て知られるその普遍的な概念は、ハイテク製品を成功に導くマーケティングの基本として広く知られ、スタンフォードをはじめとする多くのMBAコースで支持
されている。
引用終わり
何回も書いているように私は蔵書ゼロで本も雑誌も一切、読まない。従って、このIT企業のバ
イブルなる本の存在すら知らなかった。翻訳者は 川又 政治という人で出版社は
翔泳社だ。この川又さんという翻訳者は辞書を参照してchasmという単語の発音を確認しなかったのだろうか?しなかったのだろう、してればキャズムなど
というデタラメな発音をあてる訳が無いからだ。
この誤訳自体はレベルの低い翻訳者とモラルの低い出版社の例ですむのだが問題はIT業界の
識者と考えられる池田信夫氏や勝間和代氏もキャズムを平然と使用している点だ。これはハッキリ言って背筋が寒くなる現状だ。日本のITは遅れているとかガ
ラパゴスとかノストラダムスとか悪口ばかり書いてる人達にchasmの発音はキャズムでは無いと気がつくだけの英語力が無いのだ。
しかも
キャズムという誤訳がすでに広がったために海外に出かけた日本人が英語で「キャズム、キャズム」と話しかけて相手に「こいつ何を言ってるんだ?」と思われ
るだろう。これは日本という国家にとって大変な損失だ。文部科学省は、この訳本の出版差し止め請求を出し、これ以上誤訳が広まるのを防ぐべきだ。
さらに調べたら音楽で最初に日本では非常になじみが薄いchasmを取り上げたのは元全共闘の凍死、坂本龍一のようだ。
引用
キャ
ズム (Chasm) は2004年2月25日に発売された坂本龍一のオリジナルアルバム。または同アルバムに収録されている曲。 ...
坂本龍一は、地雷除去キャンペーンなどで反戦をすでに表明していたが、自宅のあるニューヨークで9.11アメリカ同時多発テロ事件を ... ja.wikipedia.org/wiki/キャズム - キャッシュ - 類似ページ
引用終わり
恐
らく坂本龍一信者は「彼はオマエのようなヘタクソとは次元が違う演奏家であり作曲家だ、言語学者ではない」と反論されるかも知れない。しかしただの演奏家なら
chasmという普通のアメリカ人が使わないラテン起源の難解な単語を持ち出さなければいいのだ。私がヘタクソというのは、その通りだが私もまた言語学者ではない。
何
というか日本の英語業界はここまでレベルが落ちたのかと愕然とする。まあ、しかしトラドスという単語換算で翻訳報酬を決めるシステムを持ち込んで、日本の
まともな翻訳者を根絶やしにしたのが正に日本の翻訳会社なのだ。だから私は翻訳の仕事をやらなくなった。ここには果てしのない悪循環だけがある。
追記
chasmならカズムと訳語をあてるべきと主張されるかたがあるかも知れない。個人的には反対だ。何故ならム=muであり、そこには母音が含まれているからだ。カズンならン=nであり母音が含まれてない。その分、より原音に近いと私は考える。
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