ジョージ・ガーシュウインに見られるアンゴラの影響
2011.08.04

今 日、買い物にいき、魚屋の前を通ったら魚ソングがかかっていた。曲名はわからないのだが、その歌詞を聴いて私は吹き出した。「過ぎた事は気にしない」と男 性数人が歌っているのだ。そらまあ、食べるほうの人間は気にしないかも知れないが、食べられる魚にしてみれば一生の不覚であろう。

この歌に触発されたのか買い物の帰りに海辺に寄ったら、魚(ボラ)が飛び跳ねていた。夏だからな・・・ という訳で今回の文章はジョージ・ガーシュウインのサマータイムである。

一 般には現在のポップスはガーシュウインから始まったとされる。対してブラジル音楽ファンはVilla Lobosやノエル・ホーザのほうが早かったという。それを言うならアンゴラでは「ロビトの洞窟」というピアノ曲が19世紀に作曲されている。こういう議 論は不毛なので止めるとして、ガーシュウインの代表曲の1つである「サマータイム」はアンゴラ人歌手フィリーペ・ムケンガが歌ったアンゴラ民謡「ウンビ・ ウンビ」によく似ていることに偶然、気がついた。

マイルス・デービスによる「サマータイム」
http://www.youtube.com/watch?v=N090STPx-2M&playnext=1&list=PLBA23AD7A44D73415

(サマータイムの歌詞日本語解説)
http://www.magictrain.biz/wp/?p=3269
YouTubeリンク、たくさんあり

ブラジル人歌手ジャバンとコンゴ人歌手ルクア・カンザによる「ウンビ・ウンビ」
(2:00まで始まらないので頭を飛ばして聴いてください)
http://www.youtube.com/watch?v=i9OxX2JAVPg&feature=related

こ の「ウンビ・ウンビ」に合わせて「サマータイム」を歌ってみてください。歌えるでしょ?確かに循環コードなので、入れ替えが可能なのだが、この「ウンビ・ ウンビ」はアンゴラの伝統的な民謡なのだ。正確には歌詞はウンブンドゥというアンゴラのバントゥー系公用語を使用した完璧な民謡。コードはフィリーペ・ム ケンガがつけたもの。メロディーは(恐らく)伝統的なメロディーを歌いやすく崩したもの。つまり「サマータイム」(1935年)より先に「ウンビ・ウン ビ」が存在したのだ。

こういう事を書くと「だからどうしたの?」と水を差す人がいるので歌詞を見てみよう。「サマータイム」の歌詞のなか に「やがて空に飛び立っていく」という部分がある(歌詞を書いたのはガーシュウインではない)。一方で、ウンビ・ウンビというのはウンブンドゥ語で小鳥の ことであり、歌詞内容も「小鳥はやがて飛び立つ」というものらしい。

一応、ポルトガル語のソースを出しておく。翻訳するほど暇ではないのでご自分で確認されたい。

http://coresepalavras.blogspot.com/2009/10/nvula-ieza-kia-humbiumbi-djavan.html

確 かにアンゴラ人歌手フィリーペ・ムケンガはジャズに大きな影響を受けたことを認めている。従ってメロディーやコードに関しては「サマータイム」の影響を受 けて「ウンビ・ウンビ」が書かれたのかも知れない。だが「ウンビ・ウンビ」の歌詞がアンゴラの伝統的民謡であるのは事実だ。歌詞に関する限り「ウンビ・ウ ンビ」のほうが早いのだ。

これ以上の主張はゴリ押しにしかならないので止めるが、John Storm Robertsも名著"Black Music of Two Worlds"のなかでザンビア民謡のメロディーがそのままアメリカ黒人労働歌に現れた例を紹介している。つまり私の説では、世界で最初のポップスは白人 (アメリカに帰化したロシア系ユダヤ人)がアメリカ黒人の間に歌い継がれているアンゴラ民謡をオペラ用にアレンジすることで生まれたことになる。

世界は想像できない形で動いているんですよ・・・

追記1

コンゴとアンゴラに関してはすでに何回も書いたが、コンゴ王国は現在のコンゴとアンゴラにまたがり存在した。従って音楽的な文脈ではコンゴ人とアンゴラ人を区別する必要はないと私は考える。今、現在の音は大きく違うのだが。

追記2

実 は、こうしたアフリカとアメリカ文化の関係を複雑にしたのが第2次大戦後に始まった冷戦である。アメリカはVoice of Americaというアメリカ文化啓蒙ラジオ局中継基地をアフリカ中部沖合の島国サントメ・プリンシペにおいた。このVOAから流れるジェームズ・ブラウ ンやオーティス・レディング、ビートルズなどがコンゴやアンゴラで熱心に聞かれた。アンゴラ人歌手フィリーペ・ムケンガがジャズの影響を受けたのも恐らく VOA経由だろう。