博士の奇妙な言動
2011.09.17

最初にお断りしておくが、私は原子力の専門家ではない。そもそも科学の専門家でもない。だから、このサイトでも疑似科学的な主張はしてない(と思う)。そういう姿勢の私から見ても奇矯に見えるのが武田邦彦中部大学教授の一連の主張である。

http://takedanet.com/

武 田氏の一連の福島原子力事故に関する発言は日本語で言えば「為になす反論」である。誰に対して反論しているか?原子力村/御用学者に対してである。見方を 変えれば、武田氏の発言は常に不安を煽る方向でなされるので英語で言うfear monger (徒に不安を煽る人)と見なすこともできる。

こ れまで一度も書かなかったが(?)、朝日新聞名古屋本社広告局の広告営業として最も長く担当したのは学校であり、当然ながらめぼしい大学は全て周った。ただ名古 屋大学などは良い大学なのだが広告を出してくれないという致命的欠陥を抱えていた。結果として接触したのは私立大学と河合塾だった。

私が長く学校担当をやったのは河合塾との相性が良かったからだと思う。丹羽氏とかアポなしで普通に話ができた。だが予備校関連は色々と書けない事情があり、今回は中部地方の私立大学に限定する。

私大協会というのが存在し、ここが新聞も含めた広告/広報をまとめていた。中核をなしていたのは、南山大学、名城大学、愛知大学、中京大学(浅田真央の在学校)と中部大学だった(ここらは全て記憶で書いているので細かい誤りはあるかも知れない)。

中 部大学は、ある時期までは理系の単科大学だった。それが文系学部を創設して総合大学になったのが1984年だった。ちょうど学校担当だった私は中部大学と 組んで1つの企画を仕上げた。その過程で色々と話を聞いたのだ。なお中部大学そのものに関しては私は好意的な印象を今でも持っている。

そ の時に、タップリ聞かされたのが「学生を集めるための話題作り」であり「学生を魅きつけるカリスマ教師」の存在である。要するに大学の生き残りを意識した 話を聞かされたのだ。これは河合塾で聞いても同様だった。大体、河合塾そのものが進学する若者の自然減にともなう変化にどう対応するか(例:校舎を簡単に ビジネス・オフィスに変えられるように設計する)で頭がいっぱいという印象を受けた。

どこで聞いたとは言わないが、よく聞いたのは「黒い 猫でも白い猫でも学生を呼び込む猫が良い猫だ」という主旨の発言だ。わかりやすい表現を使えば「問題をおこしても良い、社会的に非難する人がいても良い、 ともかく自分たちの大学名をメディアに流す。そうすれば学生の応募も自然と増えるものだ」という考え方である。注意していただきたいが、私は中部大学がそ ういう方針を取ってるとは主張してない。一般論として、生き残りをかけた大学の広報戦略を説明している。

武田氏の主張は政府より正しかった部分もあり、明らかに誇張しすぎた部分もあった。だが、武田氏の一連原発発言により中部大学の名前が日本全国に広まったのは誰もが認める事実だろう。

私は武田氏と何ら面識が無い。さらに最初に書いたように科学の専門家でも無い。だが、武田邦彦教授の一連の言動を「耳目をひく」という点から見ると大きな効果があったことがわかる。そして私立大学の経営において、何らかの「カリスマ」の存在が大きく貢献する。

武田邦彦氏の一連の奇矯な言動を、科学を完璧に排除して広報論として見ると、それほど間違ってはいない。博士の奇妙な言動はそれなりの経済合理性を持っていた。

問題があるとすれば、そうした、ある種の私立大学が大学を経営する上で何を重点視しているかが広く認識されてない点だろう。それは日本人の「民度の低さ」とも解釈できるが、同時に「真実」を伝えない大手メディアに大きな責任があることは言うまでもない。