右手で叩き左手で叩く
2011.11.08

(以下の文章では右手が利き腕であるという前提をおいてます)

昔、スタジオでドラムスの練習をしていた時だった。その時「何故、ドラムは右手でハイハットを叩くところからはじめるのか?左手でハットを叩いても良いじゃないか?」と考え、試行錯誤をしていた。

急 にスタジオのドアが開いた。入ってきたのはスタジオのオーナーだ。この人は私にむかい「アナタのやってる事は無茶苦茶だ。ドラムはこう叩くんです」と言っ て、私の代わりにドラム椅子にすわり10分ほど模範演奏をしてくれた。正直、こちらは迷惑でしかないのだが、かと言って反論するほど私のドラムはうまくな いので黙っていた。

要するに私はドラミングにおける新境地を開こうと試行錯誤していたのだが、スタジオのオーナーから何もわからないド素人がデタラメを叩いていると思われたのだ(笑)。私はおとなしいから何も言わなかったが、スティックでの叩き合い喧嘩になってもおかしくは無かった。

さて、前回の文章で「本当にオルタネート・ピッキングは万能なのか?」に関して疑問を出した。今回はドラム奏法で右手から叩き始め右左(あるいは右右左)で演奏するという常識は妥当なのかを見てみたい。

まず左手でハイハットを叩くことからドラミングをはじめるドラム奏者はどこにもいない。そういう意味では私は「間違っていた」ことになる。

いったんドラムから離れてコンガの奏法を見てみよう。特にヒール・トゥーという叩き方に注目したい。

コンガ奏法

http://www.youtube.com/watch?v=zWC9XAW1CLY&feature=related

コンガ (トゥンバオ)基本リズム

という題名の動画だが、後半はヒール・トゥーで叩いている。なお私はこのシュージさんという人の解説はわかりやすいので挙げてるだけでとても素晴らしいとは言ってない。

シュージさんも解説しているように、

1.左手の手のひらの付け根でポソッという感じで叩く

2.連続した動きで左手の指先をコンガの皮(ヘッド)にあてる。これは1.よりハッキリしたトンという音がする。やはり手のひらの付け根ではクリアな音は出ないのだ。

3.右手でコンガを叩く(左手はコンガの皮にのせたままなので音量は小さい)

4. 1と2をもう一度、繰り返した後、今度は左手をコンガの皮から離した状態で右手でコンガを叩く(大きく開放的な音がする)

こ の奏法は猛烈に不自然だと思いませんか?人間は普通、利き腕からドラムを叩くものなのに意図的に左手から叩き始めるのだ。じゃあ、何故こうした不自然な奏 法をするのか?この奏法を守っている限り、コンガ演奏に一定のリズム感(アフタービート)が自然に生まれるからだと私は考えます。

ドラムだとこうはいきません。例えばパンク・ロックのドラマーが叩く演奏にアフタービートはほとんど感じられない(私は感じないという意味。アナタは感じるかも知れない)。

つまりドラム奏法は規則を守っているだけではグルーブ感が出ない。対してコンガは奏法が恐ろしく難しいが、奏法を守っていれば一定のグルーブ感が出る。こういう大きな違いがあると考える。

何故か?まず人間の腕は左手より右手のほうが力が出てより速く動く。速く動くから利き腕というのだ。また叩く箇所でも強弱が出る。

1.左手の手のひらつけね: 低音が出るが音量は小さい。クリアさはない(ドラムのバス・ドラに相当)

2.左手の指先:音量は手のひらつけねより大きいし、クリアだが左手で叩いているので右手ほどの力強さはない

3.右手の手のひらで叩く(左手はコンガの皮の上):大きく明瞭な音が出るが、左手でミュートされているので音の減衰は速い

4.1と2を繰り返した後に、今度は左手をコンガの皮から離して右手で叩く:明るくクリアで大きな音がする

つまり 

弱 −中弱 −中強
弱 − 中弱 − 強(二度打ち)

ここで強の部分が二度打ちされていることを考えると、8ビートのリズム・パターンそのままだ。

サルサは様式美の音楽と言われることが多い。その理由は上に挙げたように一定の規則を守っていると自然にグルーブ感が出るような「仕掛け」がたくさん存在するからだというのが私の意見だ。

これをどう評価するか?一定の形式を守ればグルーブ感が出る、素晴らしいと考えるか?形式を守るのは窮屈だ、別のやり方でもグルーブ感が出せるのに形式にこだわる必要はないと考えるか?

ここでサルサ・ファンになれる人となれない人に別れる。