日銀法改正に関して
2011.11.30

引用

高橋洋一氏
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/505

最近、日本が破綻するのではないかという話が良く出てくる。実はこうした話はこれまでもよくあったが、今度こそ本当だというのである(これまでも今度こそだった!)。

まず、重要なのは言葉の定義をしっかりしておくことだ。例えば、日本が破綻するという人は、「国の破綻とは国債の暴落だ」というケースが多い。では、国債の暴落とは何かといえば、もちろん、国債価格が急落することである。

典型的な10年国債について、現在の金利は1.4%程度だが、もし5%になれば、国債価格は25%以上低下する。金利が10%になれば、国債価格は50%以上低下する。

暴落とは、どのくらいの期間で国債価格が何%低下することをいうのか。これを明確にしない限り、議論をしても意味がない。

25%くらい低下することを「暴落」というのなら、もし日本経済が本格的に回復すれば確実に「暴落」する。つまり、日本がノーマルな成長をして名目成長率が4〜5%になれば、国債金利も4〜5%くらいになるからだ。

ただし、その場合にはGDPも増え、税収も上がっているので、財政問題は改善している。事実、かつて名目成長率が4〜5%のときには、国債の金利が4〜5%であっても、財政問題は生じなかった。

現在のデフレ状況、すなわち名目経済成長率がゼロまたはマイナスの世界に慣れ親しんでしまい、金利の上昇に敏感になりすぎている人が多いというのが実態なのである。

で は、国が破綻するとは、一体どういう状況を考えたらいいのか。一つの有力な考え方として、債務残高対名目GDPがドンドン大きくなって発散的に増加するこ とだ。たとえば国債金利が5%になって国債価格が25%くらい下がったとしても、債務残高対名目GDPは発散するわけでないので、「国の破綻」とはいえな い。

引用終わり

もう1つ引用する。

引用

岩本康志氏
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33213494.html

日銀の国債引き受けが議論になっている。これについて,「財政法第5条で国会の議決があれば可能である」といわれているが,実際の条文は,

第5条 すべて,公債の発行については,日本銀行については,日本銀行にこれを引き受けさせ,また,借入金の借入については,日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し,特別の事由がある場合において,国会の議決を経た金額の範囲内では,この限りではない

となっている。

第 1文で,国債引き受けを原則として禁じている。理由は,政府が日銀の国債引き受けに頼り,過度のインフレが起こることを抑止するためである。同時に,放漫 財政の歯止めでもある。では,第2文のただし書きは何のためにつけられているのか。小村武著『三訂版 予算と財政法』(新日本法規)は,以下のように説明 している[2011年5月24日追記:同書四訂版でも同じ記述である]。

「この特別の事由については,現在,日銀が保有する公債の借換え (いわゆる乗換え)のために発行する公債の金額についてはこの要件に該当するものとして,特別会計の予算総則に限度額の規定が設けられている。これは,借 換債の性質上,日銀が現に保有しているものの引き受けであり,通貨膨張の要因となるものではないからである。」

第1文の趣旨に沿ったもので,日銀が直接引き受ける方がむしろ都合が良い事例について,ただし書きを適用する,ということである。この乗り換え額は,特別会計予算総則に書かれている。

引用終わり

高橋洋一氏と岩本康志氏の主張を読んで私はある事実に気がついた。それは何かというと、日銀法は、日銀の国債引き受けを原則として禁じているが、国債預かりに関して何ら既定してないという点だ。

日 銀は金融政策として銀行に対し一定のお金を日銀に預けることを強制する。この割合を法定預金準備率と言う。ところが、法定預金準備率をこえる金額を日銀に 預けてもかまわない。そして、日銀はこの超過分に対し付利を行っている。要するに利子をつけている。ここまでは事実である。

ならば高橋洋一氏が主張するように国債が大きく値下がりした時に、日銀が国債を民間銀行から預かることは可能だ。何故なら日本円建ての国債は実質、現金と大差ないからだ。

この時に日銀が「魅力的な付利を行う」ように行動したと仮定する。魅力的な付利とは何かと言えば、民間銀行が値下がりした保有国債を売却するより日銀に預けたほうがベターであると考える利率での付利だ。

高橋氏の議論にあるように5%のインフレが継続したとする。政府債務比率は対名目GDP比率であり、インフレ率が5%であれば名目GDPは最低でも5%は上昇する(マイナス成長はしないと仮定している)。

そうすると13年、経つと既発国債の実質的な価値(政府が支払うお金)は半分にまで落ちる。正確には0.513になる。30年、5%インフレが続くと実質的な既発国債の発行額は単純計算で1/5の21%になる。

新規発行国債はそれなりに高い利率で発行されるので、これは消化されるだろう。問題は既発国債にある。

何故、こんなややこしい事を提案するのか?日銀法を改正せずにすむからだ。日銀法のどこにも既発国債を日銀が付利をして預かることを禁止する部分はない。

日本国債は日本政府の債務だ。日銀の過半数株式を政府が保有している。そうすると日銀が預かっている日本国債分は実質的に「消える」ことになる。

その代償として、日銀は預かった国債分、民間銀行に対し利子を払わなければいけない。だが、急激に日本国債の価格が値下がりして売り込まれるよりはましだと私は思う。そして5%のインフレが13年続けば、既発分は名目GDP対比で半分にまで落ちる。

さらに、銀行が日本国債を保有する理由がある。それは自己資本におけるTier1資産である。日本国債は全額、自己資本とみなされる。対してTier2資産以下は割り引かれる。従って、自己資本比率を健全なレベルに保つために銀行は日本国債を買う理由がある。

私が日銀法改正をあまり好きになれないのは、それが国家破産論者により、日本の財政危機のはじまりと喧伝されるのが目に見えているからだ。対して日銀が民間銀行保有の日本国債に付利をして預かることは、日銀が利子分の円を刷るだけですむ。

私は上記の方法が国債価値値下がり時の対策としてベストだと思う。


追記

実は上記提案には落とし穴がある。それは日銀が民間銀行保有の日本国債を預かり、市場で現物が売られるのを防いだとしても、国債の時価評価損は計上しなければいけない点だ。

この点に関しては長期国債先物やオプションを活用して、ダメージを減らすように民間銀行が行動すべきと考える。現実にヘッジする市場が存在するのだから。