政府広報の謎
2012.01.22

最初に正直に書いておくが私は政府広報を担当したことは一度もない。新聞社広告局の上層部と電通が政府の誰かと話をして決めているという印象である。別に内閣府に足繁く通ったところで追加広告が出る訳が無いので広告局に担当者がいないというのもありうる話だ。

こ の政府広報の原資は税金である。従って今、行われているような消費税増税を進める野田内閣が政府広報をたくさん出して、日本国民に増税を容認させるよう導 くことはおかしいと思う。国民から徴収したお金=税金を使用して、国民の反消費税姿勢を変えること自体が民主主義にあわない。独裁への第一歩である。

野 田氏がTVの討論番組に出て真剣勝負で国民に呼びかけるなら話は別だ。そこで国民を納得させることができるかどうかは野田氏の力量次第だからだ。あるいは 「国民の理解が得られなくてもやらなければならないことをやる」というのも1つの考えだ。要するに選挙での負けを覚悟しても「日本の政治家としてやるべき ことをやる」という姿勢である。

野田氏は街頭演説のうまさで定評があるのだが、上に書いた2つの選択肢のどちらも選ばない。

野田氏の街頭演説勇姿

http://www.youtube.com/watch?v=THkY0BZqwjE

そうした政府広報のありかたと民主主義について書こうと思ったのだが、調べていくうちに色々、おかしな記事に出くわした。散漫ではあるが気が付いた順に書いていく。

まずウイキペディアである。

引用

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E5%BA%9C%E5%BA%83%E5%A0%B1

政 府広報(せいふこうほう、government public relations)とは、日本においては内閣府大臣官房政府広報室が実施する内閣府設置法4条に基づく広報および広聴活動のこと。主な活動は新聞・雑 誌・テレビなどへの広告出稿やインターネットホームページを通じた広報及び世論調査、国政モニター制度による広聴。

引用終わり

ところがwiki記述は新聞を利用した政府広報に関しては触れずTVやネットだけを取り上げている。不自然なまでに新聞が抜けている。他方で朝日新聞広告局のサイトでは新聞広告が政府広報の「王道」であると主張されている。

引用

http://adv.asahi.com/modules/feature/index.php/content0076.html

広 告紙面のカラー化による注目喚起、読み物的な要素の付加による興味の促進、ホワイトスペースを生かしたビジュアル表現。近年の政府広報は従来的な知識提供 型の表現に留まらず、手法を多様化させながら効果の最大化を目指している。内閣府大臣官房政府広報室 参事官補佐(企画調整担当)の坂本眞一氏にお話をう かがった

重要テーマは重層的に発信

── 広報のテーマとメディア選択との関係については。

政府広報としてはメディアの選択ということより、重要な政策については重層的に取り上げ、国民の方々の接触機会を増やすことが大切だと考えています。

も ちろん各省庁からは、メディアの選択に対する希望は伝えられています。例えば、制度の説明が重要なものは、適当なスペースなり文章量なりが必要です。です から新聞広告や、昨年度から本格的に利用している新聞の折り込み広告で扱ってほしいという希望が多く寄せられます。また地域再生の話など、現場を取材して 取り上げてほしいテーマでは、テレビをはじめとする放送媒体がよく希望されます。

最近ではインターネットの希望も増えています。内閣府では「政府インターネットテレビ」というサイトを立ち上げ、政府の施策や各大臣のメッセージなどを動画で紹介しています

── 多様化する政府広報において、新聞メディアの役割は。

新 聞媒体は政府広報の基本だと思っています。その理由の一点は、十分なスペースを割いて説明ができること。保存性もポイントで、年金に関する記事下広告など では、切り取ってそのまま保存しているといった声も聞いています。もう一点は、広告会社と協議しながら制作した、政府としての意図を反映した原稿で直接お 伝えできるということです。

引用終わり

この坂本眞一氏の主張におかしい点は特に無い。だが政府広報において新聞が基本であるなら何故、wikiに記述が無いのか?この疑問は残る。担当したことがあるなら私が書いても良いのだが・・・

政府広報と電通の関係は日本共産党が取り上げている。

引用

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-06-02/2007060215_01_0.html

2007年6月2日(土)「しんぶん赤旗」

税金で政党CM
自民・民主とも 100億円超
電通・博報堂が受注トップ

「政 府広報」を二社で六割近く、ほぼ独占的に受注している「電通」(東京・港区)と「博報堂」(同)が、国民の税金である政党助成金を使った自民、民主両党の 「宣伝事業」も多額に請け負っていることが、一日、わかりました。日本共産党の吉井英勝衆院議員が「政党交付金使途報告書」で調べたもの。

使 途報告書によると、自民党は二〇〇一年―〇五年に七百六十四億円の政党助成金を受け取っています。このうち、テレビコマーシャル費用などの「宣伝事業費」 がしめる割合は17・9%で百三十六億八千九百万円を支出。電通への支出は、ほぼ二割(19・6%)の二十六億八千万円にのぼります。以下、「アイアンド エス・ビービーディオ」六億三千四百万円(4・6%)、「アサツーデイケイ」三億七百万円(2・2%)など。

一方、〇一年―〇五年に五百 三億八千八百万円の政党助成金を受け取っている民主党は、「宣伝事業費」が23・7%を占め、百十九億五千八百万円を支出しています。発注先は、博報堂が 七十三億三千五百万円(61・3%)で断然トップ。読売広告社の十五億五千百万円(13・0%)、電通グループの十億八千四百万円(9・1%)を大きく引 き離しています。

自民、民主両党とも政党助成金の二割前後を「宣伝事業費」に使い、その宣伝を、自民党は電通、民主党は博報堂にそれぞれ依存していることがわかります。

電通・博報堂―――――
政府広報も“独占”

吉 井議員は五月十一日の衆院内閣委員会で、内閣府政府広報室が新聞に掲載する「政府広報」の広告掲載業者との契約問題をとりあげ、二〇〇一年―〇五年度まで の契約総額百三十二億二千八百万円のうち、電通が四十九億七千四百万円で全体の37・6%、博報堂が二十四億七千万円で18・7%にのぼることを明らかに しました。

吉井議員によると、電通には、内閣府の経済社会総合研究所次長はじめ十二人、博報堂には、同研究所の総括政策研究官はじめ五人の天下り(〇六年四月時点)があります。(本紙五月十二日付既報)

政治関与は重大問題

吉井英勝衆院議員の話 国民の税金=政党助成金が、電通や博報堂の利益の源泉になっているという問題です。

五 月十一日の内閣委員会で取りあげたように、電通などの広告掲載業者が政府企画のタウンミーティングから政府広報、政府の新聞広告の仕事をほぼ独占的に請け 負っています。これは、広告掲載業者によるテレビを含むマスコミへの広告料収入を通じた影響力の行使、いわば、政治関与という問題として、日本の民主主義 にとっても重大であり、引き続き追及していきたい。

引用終わり

これは朝日や読売には絶対、書けない本質をついた良い記事だ。政府広報や政党広告が新聞の影響力を買うために使用されていることがよくわかる。特に下の部分が重要だ。

引用

吉井議員によると、電通には、内閣府の経済社会総合研究所次長はじめ十二人、博報堂には、同研究所の総括政策研究官はじめ五人の天下り(〇六年四月時点)があります。

引用終わり

電通が選ばれる理由はたくさんある。1つの理由は「言い訳」である。

広 告効果を測るのは難しいのだ。もし何らかの広告キャンペーンを本当に競争入札で決めた場合、失敗した時の言い訳が難しい。上司が「何故、電通を使わなかっ た?電通を使っていれば、こんな失敗はおきなかったはずだ」と責めるのが目に見えている。そうした理由があり、一時期の地方博ブームはほぼ電通が仕切って いた。

だが政府広報を出す内閣府の重要天下り先が電通であるなら、電通以外を選ぶ理由を探すほうが難しいだろう。そうした癒着の延長線上に新聞や雑誌の部数を公査する日本ABC協会がある。

こ こが部数調査をする際に新聞社に「おたくの**販売店に抜き打ち調査を入れます」と連絡を入れる。連絡を受けた新聞社は「適切な措置」をこうじる。その為 に新聞社の押し紙は私が在社していた1980年代から一向に改善されない。そうした実態を自分の眼で見た訳ではないが、社内で公然と話されていたのも事実 だ。

最初に書いた通り、散漫な文章になった。何故、そうなるかというと十分な情報公開が行われてないからだ。元新聞社広告営業が批判的に書こうとしても、この程度のことしか書けない。残念な話だ。


追記

http://amano.blog.so-net.ne.jp/2011-07-08

広告批評の天野祐吉氏は以下のように主張される。

政府広報ってなんだ [ことばの元気学]

これ、1982年から86年にかけての「政府広報」です。

原発の安全性をアピールするものの中からほんの一部を選びました。
「広告批評」の87年6月号で、こうした広告をたくさんとりあげ、高木仁三郎さんにこまかくその嘘を指摘してもらったり、広瀬隆さんと野坂昭如さんに反原発論を書いてもらったりしたのですが、いま改めてこうした政府広報を見ると、そのこわさにぞっとしてしまいます。

「世界一の技術が、日本の原子力発電を支えています」だそうで。
じゃあ、世界中で原発事故が起こっても不思議はないわけですね。

政 府広報というのは、本来、政府からの「お知らせ」です。が、これは明らかに「行政広報」じゃない、「意見広告」です。それも、原発推進のための一方的な意 見広告です。「原発反対の人も国民の中にはいっぱいいるのに、こういう一方的な広告を、それも国民の税金を使ってやるのはおかしい、憲法違反だ」という意 味のことを、当時、小田実さんは「広告批評」に何度も書いていました。が、こういう広告の圧倒的な攻勢に押されて、反対意見はかすんでしまいました。

そ れはともかく、福島第一原発の大事故があったばかりなのに、いままた原発は安全だからと、経産省は日本各地で休止中の原発の運転を再開しようとしていま す。そのうち、新聞にまた、こういう政府広報がのるかもしれませんよ。「敦賀発電所」のところが「福島第一原発」と書き換えられて。

引用終わり

言われてみれば昔の政府広報は原発推進とか北方領土返還が多かった。何故か最近は北方領土返還が減少している。

天野氏の意見には納得できない部分がある。新聞社に取り政府広報は広告以外の何物でもない。しかも苦情をあまり言わず広告料金をねぎらない優良広告主だ。政府広報は徹頭徹尾、広告であり「お知らせ」ではない。

1982年というと石油ショックの数年後だ。あの頃、原子力を広報することはそれなりに意味があったと私は思う。また意見広告と見なすほど押しつけがましさも無いように思える。

もし天野氏がご自分の論理を信じているなら

「増税反対の人も国民の中にはいっぱいいるのに、こういう一方的な広告を、それも国民の税金を使ってやるのはおかしい、憲法違反だ」

という主張を野田氏に対しされるべきだ。広告批評とは自分の政治信条を基礎に広告を論じることなのか?