オリコミ広告の実態
2012.06.30

例によって黒藪氏が良い記事を書いている。

引用

http://www.mynewsjapan.com/reports/1634
広告代理店が折込チラシ5万枚を「中抜き」、大阪地裁が(株)マーケティング読宣など3社に情報開示求める

黒薮哲哉  00:46 06/21 2012  
 
大 阪・兵庫地区でクリニックを経営する医師がPRのため折込チラシ35万枚を発注したが、配布委託を受けた新聞販売店には、30万枚しか搬入されていない、 という“広告詐欺”事件が発覚した。チラシの物流過程には、広告代理店が3社も介在しており、消えた5万枚のチラシはいずれかで「中抜き」されたか、そも そも印刷されていなかったことになる。

疑いを持った医師がチラシ手数料の支払いをストップしたところ、2010年7月、広告代理店「アル ファトレンド」が医師に対して35万枚分の手数料を支払うよう求めて訴訟を起こし、その裁判の過程で、請求書での枚数が「30万枚」に減らされていたこと が発覚した(画像5参照)。大阪地裁は、読売系の(株)マーケティング読宣など3社に対し、問題のチラシの扱い枚数を示す書類を開示するよう求めている。 新聞とその系列テレビが絶対に報道できない、新聞折込チラシをめぐる不正の実態に迫った。
 
松岡潔医師(仮名)は、みずからが 経営するクリニックのPR手段として、たびたび折込チラシを採用していた。2008年11月、広告代理店を通じて大阪府と兵庫県下の新聞販売店に新聞折り 込みを依頼したチラシの枚数は合計35万枚だった。しかし、新聞販売店には、30万枚しか搬入されていなかったことが分かった。

大胆にも5万枚の「中抜き」。これらのチラシは、最初から印刷所へ発注されていなかった可能性もある。

これまで筆者は、水増しされた折込チラシが梱包状態のまま、街角のゴミ収集場に捨てられていたという話を何度か聞いたことがある。しかし、破棄されたチラシの枚数が帳簿上の数字で公式に明らかになったのは今回が初めてだ。

事件が発覚した舞台は大阪地裁の民事法廷。広告代理店が松岡医師に対して起こした裁判の中で、判明したのである。

松岡医師が折込チラシをめぐる不正行為が慣行化していることを疑うようになったのは、2008年ごろであった。高い広告宣伝費を投入しているにしては、効果がほとんどない。発注したチラシが本当に配布されているのかを確認する方法もない。

た とえチラシが配布されずに捨てられていても、確たる証拠を入手しない限り、広告主は広告代理店の責任を問うことができない。にもかかわらず、松岡医師が PRの手段として折込チラシを選択してきたのは、新聞社に限って不正を黙認するようなことはあり得ないだろう、と考えていたからである。
 
そのうち松岡医師は、インターネットや週刊誌の記事で、チラシの不正と表裏関係にある「押し紙」問題について知るようになった。

引用終わり

まずチラシ(業界用語ではオリコミ広告)の歴史を見てみる。と言っても私は販売局で働いたことが無いので、あくまで広告局側から見た歴史である。

か つて新聞にチラシがほとんど無い時代があった。1960年代だ。何故、チラシ(以下、オリコミと呼称)が無かったか?新聞社の経営状態が非常に良かったか らだ。TVはまだ新聞を脅かすほどの広告媒体では無かった。販売収入(要するに、あなたが支払う購読料金)も十分であり、無理してオリコミを入れる必要が 無かった。当時はオリコミに相当する広告は新聞の地方版広告などに入れられていた。

1970年代後半あたりから事情が変わる。押し紙を中心にした拡販競争の開始である。これを始めたのは読売新聞社だ。

ある時期までの新聞業界において購読料金は全て談合で決めていた。何回も各社が会合を持ち、何時からどの程度上げるかを完全に足並みをそろえて行っていた。ここで業界談合を破ったのは読売新聞だった。

例えば9月1日から、新聞朝夕刊で月3000円だったのを3500円に上げると決めていたと仮定しよう。

朝 日や毎日、要するに読売新聞以外はこの談合を守った。読売新聞社は逆に価格据え置きを武器に大規模拡販を行い部数を大きく伸ばした。一見すると良い話に見 える。だが読売は価格競争をするつもりでは無かった。その証拠に1年も経ち、読売の部数での朝日への優位が確立された後は、購読料金は従前通り、業界談合 で横並びで決められるようになったからだ。

この拡販競争はそれまで「殿様商売」だった新聞販売店を疲弊させた。その過程でオリコミ広告が導入された。いくつか指摘しなければいけない:

1.オリコミ広告は純粋に広告である

2.従って新聞社広告局が扱うのが本来の道理だ

3.だがオリコミ広告を入れることで新聞販売店が潤った

4.当時は無理しなくても広告が入った

5.結果、広告局が販売局に譲歩した

6.オリコミを扱うのは通常の広告代理店とは異なるオリコミ専業広告代理店だ (そうでない場合もある)

7.広告局の営業を10年やった私ですら朝日新聞の本当の部数を一度も知ることが無かった

8.押し紙に関する秘密は厳格に守られるようなシステムがあった(販売担当員制度と販売台帳管理。この販売台帳には押し紙がどの程度存在するか書かれている。当然、外部の人間が見るのは不可能に等しい)

最 初の医師の例を見てみよう。恐らく医師は何らかの媒体資料(新聞社が作成する部数、読者特性などに関するパンフレット)を受け取ったはずだ。医師は自分が オリコミを入れたい地域を選んだ。それがAとD、E、G地域だった。この地域の部数合計を媒体資料で見ると35万部だった。医師は媒体資料を信じて35万 部の料金を支払った。

ここから先は私の推測であり正しいかどうかは不明だ。

恐らく、医師からの注文を受けたオリコミ広告代理店は考えた:

「押し紙が5万部あるなら30万部刷って請求しても同じだ。何故なら5万部は存在しない幽霊部数だからだ」

この極めて合理的な発想で印刷されたオリコミ広告は30万部だった。とすると

5÷35≒14%

読売の押し紙比率は14%程度と思われる。なお、印刷されたオリコミが全て新聞販売店に持ち込まれ、配達されたという保証はない。開封されないまま「捨てられた梱包」があったかも知れない。その場合、読売の押し紙比率はもっと高いことになる。

上の医師のような杜撰な例が現れるのはオリコミ広告を扱っているのが、新聞社広告局ではなく販売局と、販売局と深いつながりがあるオリコミ広告社だからだ。彼らは押し紙抜きの本当の部数を知っているのだ。

もし新聞社の広告局が手がけていれば押し紙がばれることはない。

何故なら、押し紙を隠蔽するのに日本ABC協会という社外組織を使用しているからだ。少なくとも私が朝日新聞社内で得た情報ではそういう事になっていた。

ところで、社内でも局長レベルになると押し紙抜きの本当の部数の報告を受ける。編集局長も広告局長も受ける。

押し紙抜きの本当の部数を知りながら「押し紙こみの部数ベースで広告料金を請求する」ことをわかりやすい日本語で詐欺という。