|
実質実効為替レートでは円高擁護をできない 2012.07.04
この文章はやたらと理屈ぽいが、新聞やTV御用達の経済学者の主張は相当にいい加減であり、実態にそぐわないものが多いという例を出してると考えていただきたい。
引用
http://money.infobank.co.jp/contents/S200445.htm
実
質実効為替レートとは、物価調整後の実効為替レートのことです。輸出競争力はそれぞれの国のインフレ率によって影響を受けるため、一般に用いられる名目の
為替レートを自国と主要な貿易相手国とのインフレ率格差で調整した実質為替レートを求め、輸出ウェイトを各年毎に更新する連鎖指数方式で算出したもので
す。実際の国際競争力の推移などを見る場合に用います。
引用終わり
この実質実効為替レートを国際決済銀行(BIS)が発表している。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5072.html
ここでの大きなグラフを見ると現在の実質実効為替レートは100円前後のようだ。そして、この実質実効為替レートは財務省や日銀は円高に対し何をやってると言う批判への反論の文脈で使用されることが多い。つまり財務省および日銀の円高容認姿勢の擁護として使用されてきた。
他方で産経新聞は下のように報道している。
引用
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110819/bse1108192217002-n1.htm
産
経新聞社が主要企業115社に実施したアンケートで、円高や電力不足によって、工場などの海外移転が加速する産業空洞化の恐れが「ある」と回答した企業が
8割を超えた。業績の圧迫材料としては、5割超の企業が歴史的な高値にある「円高」を挙げ、国内での事業継続が厳しさを増している実態が浮かび上がった。
一方、民主党政権を「評価する」とした企業は1社もなく、政策への不満が明確になった
引用終わり
企業アンケートでは円高は良くないという結論が出ている。ここでは何故、円高が良くないのかを為替ヘッジ費用から説明してみる。
なお、名目での為替レート自体は経済に中立的と仮定する。
輸
出企業は製品を海外にドル建てで売り、売れた分をドル建てで受け取る。そういう契約が多い。米国ドルが国際決済通貨であり、日本円はそうでは無いからだ。
この時、売ってから売れたお金が日本にある本社に送金されるまで数ヶ月のタイム・ラグがあると仮定する。これは妥当な仮定だ。
この時、為替予約あるいは何らかの為替ヘッジをしないのは自殺行為だ。何故なら、海外に売った製品が日本円でいくらの収益をもたらすか予測できないからだ。ここでは企業は通貨オプションを使用してヘッジしていると仮定する。
仮
定だらけになったが妥当な仮定だと考える。
ここで円安トレンドにある時を考えてみよう。まず企業には為替ヘッジをしようという切実なインセンティブ(動機)が無
い。なにしろトレンド「がドルに対し円が安くな」るのだから、タイム・ラグで売り上げを受け取っても円換算ではより大きくなる。たまたま、アメリカから日本に
送金する日に円高にふれていても、トレンドは円安なので、送金を先に延ばせば良い。つまり円安トレンドにある時、企業が為替ヘッジをするインセンティブ(動機)は
小さく費用は僅かなのだ。
対して円高トレンドにある時は為替ヘッジが必須となる。何故なら、海外での売り上げを日本に送金するのが遅れれ
ば遅れるほど日本円での売り上げが小さくなるからだ。そしてみんなが為替ヘッジをする為に通貨オプションを買うと、当然ながらオプションの値段(プレミア
ム)は高くなる。
こ
のオプションの値段は何かというとボラティリティー(変動幅)そのものである。正確にはIV(インプライド・ボラティリティー)が取引される。IVはブ
ラック・ショールズ式から算出される理論価格とは異なり、市場参加者の需要と供給、不安と期待を織り込んだ価格である。何か訳のわからない説明だが、通貨
が大きく変動すると市場関係者が考える時には通貨オプションの値段が上がるという意味だ。
これだけでも名目為替レートでの円高が輸出企業にとり、好ましくないことがわかる。通貨オプションは当然ながら、名目為替レートを原資産としているからだ。ここも訳がわからない表現だが、普通のドル円相場にそって通貨オプションが設定されていると理解していただきたい。
さ
らに考えてみる。1ドル=140にある時、1円の変動は±0.714%に相当する。対して1ドル=80円にある時の1円の変動は±1.25%に相当する。
つまり円高になればなるほどボラティリティーが上がる。通貨オプションの値段はボラティリティー(通貨変動)そのものだから、この点においても円高は輸出企業に望まし
くない。
さらに理由は不明だが、通貨オプションはアメリカ証券会社は普通に扱っているのに日本の証券会社で扱っているところはほとんど無
い。結果として中小企業は取引銀行がもちかける通貨オプションを買うことになる。この通貨オプションに落とし穴がある。KIKOと呼ばれる比較的安いが為
替ヘッジとして機能しないことが多い通貨オプション(仕組み債)である。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1219560567
ここでは韓国の例が挙げられているが日本も同じである。
http://www.interactivebrokers.com/jp/accounts/accountOpeningSteps.php?ib_entity=jp
インラクティブ・ブローカーズという米系証券会社に口座を開設すれば日本でも通貨オプションを利用できるのだが・・・
つ
まり私の考えは、実質実効為替レートが例え140円であろうと、それは実質的に意味のないレートである。
何故なら輸出企業が為替ヘッジをする費用は名目為
替レート(通常の為替レート)に応じて決まるからだ。そして円高になると為替ヘッジ費用がふくれあがる。それなら消費地あるいは人件費の安い為替が安定している国(例えば中国)で生産しようと考え、国内の工場を閉鎖し、海外に工場を
作る。これは日本の雇用喪失であるため、もちろん日本経済には望ましくない。
追記
為
替ヘッジをするということは保険をかけるということだ。そして、どこの世界にも無料の保険は無い。円が上昇するトレンドがあると、輸出企業は保険をかけざ
るをえない。何故なら、海外での売り上げも日本円で幾らになったかで決算するからだ。従って、円高は輸出企業に取り大きな負担であり、日本の不況につなが
りやすい。
この背景には、プラザ合意以降のドルに対する円の上昇という大きなトレンドがある。
| | | |