みんな広告会社だ
2012.07.05

あなたがジャズ・ファンだとする。

もし職業を聞かれて「私はジャズ・ファンです」と答えても世間では通用しない。何故かというとジャズ・ファンであることは何ら収入を生まないからだ。

ジャ ズ喫茶を経営しているなら喫茶店経営により利益が生まれる。喫茶店経営者と名乗ることが可能だ。もしジャズ評論家で雑誌に寄稿したりイベントの司会をして いるなら、これも職業になりうる。ジャズ雑誌への寄稿はほとんど金にならないと思われるので司会業が職業となるのだろう。

引用

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080418/150692/

米Google Inc.は,2008年第1四半期(2008年1〜3月)の決算を発表した(発表資料)。売上高は対前年同期比42%増の51億8604万米ドル,営業利 益は同27%増の15億4624万米ドル,純利益は同30%増の13億709万米ドルと,引き続き好調を維持している。

売上高の内訳を見ると,広告の売上高が50億8655万米ドルで,全体の99%を占める。前年同期と比べると40%増加した。ライセンス料およびその他の売上高は,対前年同期比172%増の9950万米ドルだった。

広 告の売上高の内訳を見ると,同社のサイトに掲示した広告を収益とする「Google web sites」部門は,対前年同期比49%増の34億41万米ドル,「Google AdSense」プログラムを介して提携者から得る「Google Network web sites」部門は同25%増の16億8614万米ドルだった。Google AdSenseは,Google社と契約した提携者のWebサイト上に,同社の検索技術などを用いて,サイトの内容に関連する広告を表示するプログラムで ある。広告プログラムの窓口となる提携者にGoogle社が支払う手数料(TAC:Traffic Acquisition Costs)は,14億9000万米ドルで,Google社の広告の売上高のうち,29%を占めた。

引用終わり

引用元の記事が少し古いが、現在も大きくは変わってない。

グー グルは新しい形の広告会社(広告代理店)なのだ。検索エンジン云々は広告収入を生む為の手段に過ぎない。いやいや、グーグルはそれ意外にも多彩なサービス を提供していると言われるかも知れない。だが、それは電通も同じだ。電通もイベントを開催し、版権を取得し、企業に対しアドバイスをしている。

だが電通は広告会社と見なされている。対してグーグルは検索エンジンと見なされている。これは「私の職業はジャズ・ファンです」と名乗るのと同じくらい滑稽だ。

し かし、考えてみると新聞社もまた広告収入が最大収益源だ。1980年代、私は朝日新聞において広告営業として仕事をした。そして、この10年間、朝日新聞 社の最大収益源は広告だった。なお販売収入と広告収入の正確な比率は新聞社により公表されてないが、下のようなデータがある。

引用

http://www.pressnet.or.jp/data/finance/finance02.html
日本新聞協会

発行規模別収入構成
総収入を100とする構成比率

販売収入   広告収入     その他収入 営業外収益    特別利益
(約80万部以上)
    
61.1             22.3         15.0             1.0                 0.5

この 公式なデータを見ると販売収入、つまりアナタが支払う購読料金のほうが広告収入より遙かに大きい。だが、販売収入は経費こみのグロスで、広告は経費を引い たネットで計上している。祖利益と純利益と言い換えることもできる。そして新聞販売店網を維持するのには莫大な経費がかかるために、販売局の純利益はマイナスである。主に広告収入から補填してい た。

上の私の指摘は1989年12月まで朝日新聞社広告局で働いた私の、「広告局内部で常識として語られていた事実」に基づいている。ただ、資料を出せと言われても出せない。ここは信じていただくしかない。

ここでグーグルと朝日新聞社を比較して見よう。

1.両者とも収入の柱は広告売り上げだ

2.朝日新聞は直(ちょく)で広告を受けることはない

3.広告主から直(ちょく)で広告を受けると金銭トラブルがおきた時の様々な損失が大きいからだ

4.要するに広告営業が広告主から直接、お金を受け取る形式だと不正が生まれやすいのだ

5.グーグルの特徴は広告主から直接、広告を受注している点だ

6.広告代理店へのマージンは通常15%である(ここでは公式論を書いている)

7.グーグルは広告代理店に手数料を払う必要が無い分、新聞社の広告局より優位にある

8.グーグルが提供するのは検索サービスだ(ここでは単純化している)

9.新聞社が提供するのは記事だ

10.とすると、広告売り上げで成り立つ民間企業という分類で見た場合、グーグルも朝日新聞も同じだ

11.2012年にフェースブックが新規株式公開を行い、上場取引されるようになった

12.フェースブックの収入源は広告である

13.とするとフェースブックはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を提供することで広告を集めていると見ることができる

14.一部の情報(例えば金融情報)は情報そのものに価値があるために有料で販売されている

15.身近な例ではリクルートが発行する求人、不動産雑誌だ。全て広告であり、記事は無い、だがそうした広告雑誌は広告そのものに価値があるために有料でも売れる

16.これは新聞社でも同じで、求人広告は他の広告より優先して掲載した

17.何故なら、1980年代は新聞を見て職探しをするのが一般的だったからだ

私はここで何を言っているのか?

新 聞社が提供する情報(ここでは記事を指す)は単体で売るだけの価値が無いのだ。何故なら各社似通っているからだ。新聞購読料金という形で読者が確かに情報 に対し支払いをしてくれる。他方で新聞販売店網を維持するのには莫大な経費がかかる。結果として広告収入に依存することになる。

ここで情報産業のランク付けをして見よう

1.読者が情報そのものに対し大きな価値を見いだすために購読料金だけで成り立つ情報産業(求人雑誌、不動産雑誌、ある種の金融サービス)

2.情報に単体での価値が乏しく、読者が支払ってくれる購読料金では会社を維持できないために広告に依存している情報産業(新聞社など)

3.情報は利用者が提供すると考え、場所だけを提供することで広告を集める情報産業(フェースブック、日本では2ch)

4.ネット上に存在する情報をかきあつめ分類し、検索サービスを提供することで広告を集めている情報産業 (グ−グル)

も し情報そのものに価値があるならみんなは情報に対しお金を支払う。例えば、明日の日経平均がわかるなら、数千万円のお金を出そうという人々はたくさんいる だろう。明日の日経平均を正確にあてることは不可能だが、個々の企業なら明日、発表予定の決算数値を知ることで同じ目標を達成できる。

ほとんどの世の中の情報には、それだけの価値がないのだ。ここであまり価値が無い情報を何らかの形でまとめることで(パッケージ化することで)広告収入を得ようというメディア/情報産業の普遍的なモデルがある。

つまり新聞に掲載されている記事には、それほどの価値が無いのだ。だから記事をたくさん集めて紙面を作成し、紙面のあちこちに広告を入れていく。一見すると、記事が情報として売れているように見える。だが実際の収入を新聞社にもたらすのは実は広告だ。

繰 り返すが、もし情報そのものに十分な価値があると思えば、読者は広告無しの新聞紙面を作成できるだけの購読料金を新聞社に支払うだろう。他方で新聞社(通信社や広 告代理店含む)業務には膨大な人々がかかわっている。全国に支局を配置することを考えれば記者の人件費だけで莫大な額になる。新聞社は広告を入れないと成立し ない商売なのだ。

最近はむしろ、新聞に折り込まれるチラシさえあれば新聞は要らない、つまり広告だけで十分という家庭も増えてきた。オリコミチラシはネット上で見ることもできるので、オリコミチラシを目的に新聞を取る人も、きっと減るだろう。

要するに広告会社をどう定義するかだ。

1.広告を自ら集め媒体(新聞やTV)に提供する際に手数料を取るビジネス。つまり広告代理店。これは従来の定義。

2.業態がどうであれ、会社の主要売り上げが広告収入である民間企業

もし2.の意味で考えるなら、新聞社もグーグルもリクルートもフェースブックもみんな広告会社である。